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ボクが選んだボクの人生~20 幸せな時間~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 臨月に近づいているのだろうか。
この前まである程度動き回れていたのに、最近やけに窮屈になってきた。
向きを変えるのに一苦労していると、時折彼女がくすぐったそうに笑う。
彼女が聴いている音楽に合わせてボクが肋骨のあたりを「トントン」と叩くと、
「お、曲のテンポに合ってたよ。天才かも。」と喜んだりする。
少々不自由だけれど、穏やかな幸せに包まれた時間だった。

 そんなある日、久しぶりに彼がこのマンションにやってきた。
怪我の回復は順調で、日常の暮らしにはもう特に支障はないらしい。
「アイツが浮気をしてたのはどうも本当らしいんだけどね。
自分のことを考えれば五分五分だし、もういいかな、って思って。」
彼は妻の言い分を受け入れ、離婚に応じることにしたようだ。
「新しい仕事もまだ未定だし、慰謝料や養育費のことを考えると
不安材料は尽きないんだけど、それでもよければ・・・。」
彼のために何か飲み物を用意しようとしていた彼女の手が止まったようにボクには感じられた。
「それでもよければ、僕と結婚してもらえないだろうか。」
つわりの時期を過ぎてからは、少々辛いことがあっても泣かなかった明るくて気丈な彼女。
でもそれは本当に「平気」だったわけじゃなくて、
必死で頑張って「平気」だと自分に思いこませていたんだろう。
その証拠にほら、彼の言葉を聞いた瞬間に子どものように泣きじゃくっている。
彼がいとおしそうに彼女を抱きしめているのが分かったボクは、
負けじとオナカの中から彼女をそっと抱きしめた。


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