ボクが選んだボクの人生~23 そう、あと少し!~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]
病院に入り受付を済ませた彼女は、初産とは思えないほど落ち着いている。
まだ痛みがさほどでもないのだろう。待合室で雑誌を読んだりしているみたいだ。
ボクはこんなに息苦しいのに、何て呑気なんだと思うと少し悔しくて、
彼女の肋骨のあたりをかかとでグイッと力任せに押しあげた。
その時彼女が「あっ・・・・。」と小さく叫んだ。
「破水・・・?」そうつぶやいて立ち上がると、誰かを呼び止めて話をしている。
看護婦さんらしきその人に案内され、彼女が診察を受けている間にも、
オナカの環境は急速に悪化してきて、ボクは気を失いかけていた。
どれくらい経ったのだろう。ボクが次に目を覚ました時に聞こえてきたのは、
「あと少しだからね。がんばれ!」という彼の声だった。
息苦しくてならないボクは、とにかく外に出たい一心でもがいてみた。
すると、いよいよ苦しくなって再び気が遠くなりそうになる。
「心音が下がってるんですよね・・・。」という聞き慣れない声。
主治医の先生だろうか。それに続いて「そうなんですよね・・・。」という
彼の意外に落ち着いた声。おい、もっと慌てろ!とボクは叫びたくなった。
さらにもがきながら一回転すると、突然息苦しさが嘘のように消えた。
どうも、何か首に巻き付いていたらしい。これで生き延びたぞ!
俄然やる気の出たボクは、産道に向かって突き進む。
今まで見たことのない明るい光が目の前に見えてきた。
かなり狭い道のりだが、さっきまでの息苦しさを思えば何てことはない。
彼女も苦しそうにあえいだり叫んだりしている。とても辛そうだ。
あと少しだよ。ボクは頑張って、ボク自身の力でここから脱出するからね。
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