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ボクが選んだボクの人生~24 新しい世界だ~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 何度も体をねじり、気を失いそうになりながらも前へ進む。
ここさえ乗り越えればどんな辛いことにも耐えられるだろうと感じながら、
手足を出来るだけ折りたたみ、可能な限り小さくなって光を目指した。
彼女の「いきむ」力とボクの進もうとする意志とがぴったり合わさった瞬間、
突如として世界が変わった。出られたんだ、新しい世界に。
「がんばったね。」「えらかったね。」皆口々に彼女ばかりを誉めるけれど、
ボクだってすごく頑張ったんだ。「よく生まれてきたね。」と誰か言ってくれ。
内心、不満たらたらのボクを誰かが抱いて、お湯で洗ってくれている。
今までずっと狭いところで我慢していたので、とても気持ちがいい。
やがてタオルに包まれ、ボクは父である彼のところに連れて行かれた。

 「元気な女の子ですよ」と助産師さんらしき人の声。
そうだ。ボクは女の子だったんだ。すっかり忘れていた。
分かってはいたことだけど、頭の切り替えには多少時間がかかった。
横たわる彼女の傍らにボクをそっと置きながら、「よく頑張ったね。」と彼が言う。
ボクのことも誉めてくれ!心音が下がっても気を失いそうになっても頑張ったのに。
でも、彼女はボクのほっぺたにやさしく触れながらこう言ったんだ。
「頑張ってくれてありがとう。よく生まれてきてくれたね。」って。
今までの苦労がすべて報われた気がした。生まれてきて、本当によかった。
ありがとう母さん。ボクは命がけで母さんを幸せにするよ。
女の子としてのボクの人生が、今動き出した。


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