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ボクが選んだボクの人生~27 誰かがボクを呼んでいる~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 遠くから誰かの声が聞こえる。あまり聞き慣れない男の声だ。
記憶の隅っこにうっすらと残っている気もするけれど、思い出せない。
しばらく耳を澄ますと、他にも声が聞こえてきた。
「湘子、大丈夫かい?」と心配そうな声は、父さん。
「リンゴ、摺りおろしてきたよ。」とおおらかな声は、母さん。
湘子がどうかしたのだろうか。ボクは一気に目が覚めた。
「ちょっと熱が高いなぁ。どうする?病院、行く?」
「朝まで様子見てからでいいよ。今はこうしていよう。きっと大丈夫よ。」
相変わらず落ち着いているのは母さんの方だ。

 しばらくすると、もう一度聞き慣れない声が聞こえ始める。
「聞こえないのかなぁ。担当係官のジロウなんだけど。」
担当係官・・・・・。ボクは記憶の引き出しを片っ端から開けて、
ちょっと太ったアイツの顔をどうにか思い出した。
ジロウ、と名乗られても困るのだ。名札だって見たことないし、
部屋のドアには担当区域の「D-F]とだけ書いてあったんだから。
「報告書を書きに来てもらう決まりになってるんだよね。
聞いてなかった?両親を決定してから10年後の報告ってヤツ。
説明し忘れたかも知れないね。ごめん。ま、そういうことなんで。」
もちろん、そんな話は聞いてない。それにどうやって行くんだ?
10年経ったっていうのも信じられない。両親を選んでから10年ってことは、
大雑把に考えて5年か6年もの間、ボクは箱の中で熟睡していたのか。
あれこれ考える暇もなく、ボクは湘子の潜在意識からするりと引き出され
満天の星空に吸い込まれていった。


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