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ボクが選んだボクの人生~28 父さんと母さんのこと~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 「ふわふわ」の上に着いて部屋に入ると、
係官のジロウは10年前のあの日と同じように口をもぐもぐと動かしていた。
「やあ、君。悪かったねぇ。説明してなかったみたいで。」
口で言うほど気にしてはいない様子の彼のデスクには、
あの時ボクが書いた書類が無造作に置かれている。
「報告書のことなんて聞いてなかったですよ。」と言いながら覗き込むと、
希望の性別に印をつける部分に、何やら食べこぼしのシミがあった。
「男」の方につけた印は汚れて見えなくなっていて、
ご丁寧にも「女」の方の欄にペンでチェックを入れたようなシミがついている。
なるほど、そうだったのか。彼ならありそうなことだ。
でも、文句は言わずにおいた。プラス思考は、母さん譲りだ。

 「とりあえず、君の両親の総合評価を書き込んでくれる?」
手渡された書類には、評価するための欄が設定されている。
ボクがここから見た時にプロ野球選手だった父さんは、
怪我で引退してしまって予想とはかなり違った暮らし向きになったし、
初めのうちは他の女性と結婚していた点もマイナス要因かも知れない。
でも。
予期せぬ怪我で引退を余儀なくされても前向きに生きてきた父さん。
最初の妻に浮気されていても、つべこべ言わず別れてあげた父さん。
そして何よりも、母さんを心から愛して大切にしてくれている父さん。
ボクは迷わず100点をつけた。

 次は母さんの番だ。
初めて見た時は「きれいな人だな」という印象だけだったけれど、
その美しさは決して外見だけではなかった。
オナカの中にいるボクが、うっかり恋をしてしまいそうになるほど
彼女は潔くて強くてあたたかい女性だったんだ。
正直に言うと母さんには満点では足らないくらいだから、
気持ちをこめて大きく力強い字で「100点」と書いておいた。

 書類を渡すと「手続きするんで、少し待っててくれる?」と係官が言う。
久しぶりに少しだけ、「ふわふわ」の上から下界を観察してみよう。
ボクは係官の部屋を出て、家族が見える場所まで急いだ。


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降龍十八章

『ふわふわ』というネーミングとてもいいですね!
by 降龍十八章 (2005-10-20 08:51) 

はなぽん

降龍十八掌さん、書き始めた当初からずっと支えていただいて、
本当に嬉しかったです。
「ふわふわ」は雲の上というイメージで実はテキトーに書いてしまって
「子どもっぽいよなぁ・・・」と反省してたんですよ。
だから誉めて下さって私も雲の上に登ってます!
by はなぽん (2005-10-20 09:14) 

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