ボクが選んだボクの人生～２９ ボクはずっとここに居るよ～

　１０年前に父さんと母さんが並んで立っていたベランダのすぐ横が
湘子の部屋の窓になっている。明かりはまだ消えていない。
熱を出して寝ている湘子の傍らで、父さんは心配そうに座っている。
じきに部屋に戻ってきた母さんが湘子の額に手を当て、
安心したように父さんと顔を見合わせて笑っている。

　ここからあの場所に戻ったら、ボクは湘子の潜在意識に格納される。
でも、それは愛する父さんや母さんとの別れではなく、
湘子が生きていてくれる限り永遠に続く「ボク」の人生なのだ。
もしも家族に困ったことが起きたら、箱の中から跳ね起きて全力で助けよう。
そして、ずっとずっと先にもう一度生まれ変わることがあったとしたら、
ボクはまた、父さんと母さんのような人を選ぼう。

　係官の部屋に戻ると、ジロウは何と居眠りをしていた。
こんな呑気なヤツにボクの人生は委ねられていたんだな、と思うと
思わず吹き出してしまった。彼もまた、愛すべき人なのかも知れない。
ボクは眠っているジロウを起こすことはせず、自分で「手続き終了」のボタンを押した。

　「ふわふわ」から地上に戻るボクの軌跡を、
たまたまベランダから眺めていたのは熱の下がった湘子だった。
「あ、流れ星！急いでお願いしなくっちゃ。
そうだ！お父さんとお母さんと、ずっと仲良く暮らせますように。」
ボクは湘子の頭をそっとなでながら、彼女の潜在意識にすべり込んだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ー完ー

コメント 4

エンディングも大変すばらしい！
これは、ドラマか映画にして見たいですね。
by 降龍十八章 (2005-10-20 08:52) 

降龍十八掌さん。
誉めすぎです。木に登ったまま、降りてこられなくなりました。
by はなぽん (2005-10-20 09:14) 

遅くなりましたが、コメント入れさせていただきます。
いま５００近くなっているＧＢＡノベルのエントリー作品のうち
いまのところ、秋桜さんの話が、私の一番好きな作品です。
秋桜さんが受賞するなら、私は負けても悔いなしです。
by (2005-11-07 10:36) 

秋見さん、何でそんなに誉めて下さるんですか・・・。
泣きそうです。ほんと、泣きそう。

この場所で秋見さんをはじめ、素晴らしい人に出会えたのは
たまたまＧＢＡの存在を知って、Ｓｏ－ｎｅｔブログにまぎれこんだおかげです。
人の縁って不思議ですね。今は、勝つとか負けるとかよりも
みんなの作品をたくさん読みたい、その気持ちが一番です。
毎日読んで下さって、支えて下さって。
ほんとにありがとうございます！
by はなぽん (2005-11-07 10:45)