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天才モンちゃん今日も行く(第二十九話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 ドウダイジのゴジュウショクと呼ばれるこの人がミヨさんの葬儀のお坊さんであり、
お坊さんというのは一休さんを読んだ人なら分かるとおりお寺に居るのだから、
この人の後を追いかければ、ほぼ間違いなくミヨさんのお墓の場所が分かることだろう。
そうすれば、今回の脱走計画を無事に終わらせて、川橋先生の元に帰ることが出来るのだ。

 でも、モンちゃんは友達を裏切れるような犬じゃない。
知り合ったばかりだけれど、あのやさしいテツを見殺しになんか出来るはずがないのだ。
僕に体が二つあったならどんなにいいだろう。悔しくて涙が出てきた。
モンちゃんのそんな気持ちも知らずに、田中さんは
「コロッケ、うまかったかい?モンちゃん。」と呑気な顔で言い、
水田さんも「よかったなぁ、お使いのついでがあったらいつでもおいで。」と笑っている。
人間の言葉が話せぬ以上、この気のいいおじさんたちに何を頼むことも出来ない。
ゴジュウショクの後を追うことを諦め、気づかれぬように涙を拭いて
おじさんたちが差し出す掌に「お手」をしてあげてから走り出したモンちゃんの前を、
黒い乗用車がゆっくりとしたスピードで走っていた。
モンちゃんが何気なくその車を見上げると、後ろのガラスに「道台寺」と書かれている。
「さっきの・・・お坊さんの・・・お寺?」とモンちゃんは直感したが、
あの字が本当に「ドウダイジ」と読めるのかどうか確信が持てない。
前に回ってみたら何か分かるかも知れないと考えたモンちゃんは、
ミヨさんのためにメロスになりきって疾走したあの時を思い出してひた走り、
運転している男の人が間違いなくさっきの「ゴジュウショク」であることを見届けた。
よし。「道台寺」だな。字もちゃんと覚えたぞ。これで安心してテツを探せる。
懐かしい商店街をあとにして、モンちゃんは再び走り出した。

テツのいう「町内を一回り」がどの辺りまでなのかは分からなかったが、
もしかするともうあのお寺に戻ってきている頃かも知れない。
今日が「12日」ではないことを祈りながらモンちゃんはひた走った。
すると後方を走ってくる車から、何か声が聞こえる。
立ち止まって聞くと、野犬狩りについて知らせる宣伝カーだった。
「明日、野犬狩りを行います。つきましては・・・・。」
モンちゃんは思わず飛び上がりそうになった。明日、とたしかに聞こえた。
これで今日のうちにテツとその仲間が危ない目に遭うことはなくなった。
モンちゃんは心の底から安堵し、テツと別れたあのお寺の方角を目指して走り始めた。

ー続くー


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コメント 3

あー、やはりモンちゃんは仲間をとったか。
モンちゃんらしい選択にnice!です。(^_^)
でも、お寺の名前がわかったのは大きいですね。
by (2005-11-18 11:44) 

降龍十八章

お手をしてあげるモンちゃんがいいですね。涙を拭くのも板についてきましたね。
by 降龍十八章 (2005-11-18 11:53) 

はなぽん

秋見さん☆降龍さんへ

☆秋見さん、こんにちは。モンちゃんらしいですよね。
お寺の名前、実はずいぶんと考えたんです。
実在しちゃうとまずいでしょ?だから、考えに考えて
検索かけまくってやっと道台寺に決めました。
道明寺だと「花より男子」になっちゃうので(^^)
いつも読んで下さって、ホントに嬉しいです。感謝しています。

☆降龍さん、こんにちは。
田中さんと水田さんは根っからの善人で、物事を深く考えないおじさんたち。
モンちゃんがそこを分かっていて「お手」を「してあげた」ってのが
自分では気に入っているんです。なかなかいいでしょう。
お忙しいのにいつも来て下さってホントにありがとうございます(^^)
by はなぽん (2005-11-18 12:01) 

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