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天才モンちゃん今日も行く(最終話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 川森小学校の前まで来ると、モンちゃんは自分が地図を読めたことを少しだけ自慢したくて
功太君の袖口を軽く噛んで掲示板の所まで引っ張っていった。
どちらかというと勘が良くて、モンちゃんの才能もよく理解してくれている冴子さんだが、
さすがにモンちゃんがこの地図を見てお墓を探したということには思い及ばず
「功太も大きくなったら小学校に行くんだね。」と話すにとどまり、頼みの綱の先生も
「そうだねぇ。まずは来年、幼稚園かな?」と言うだけだったので
モンちゃんは誉めて貰い損なったことに少しだけ不機嫌になった。
「モンちゃん、どうしたの?何か怒ってるの?」と功太君が話しかけながら
モンちゃんの耳をつまんだりしていると、脇道から一匹の犬が飛び出してきた。

 「モンちゃんじゃねぇか!」と叫びながら現れたその黒い犬は、テツだった。
「テツ!会えて良かった!僕の探していた飼い主のミヨさんのお墓が見つかったんだよ。
お参りしていたら、病院の先生と飼い主の人の家族にも会えたんだ。」と報告すると、
「そりゃあ、何よりだったなぁ。頑張った甲斐があったじゃねぇか。
それにしてもよく見つけたなぁ。どうやって探したんだ?」とテツが言う。
モンちゃんは嬉しさに「学校の前にあるあの地図を見て分かったんだ!」とテツに伝えた。
するとすかさず「さすがはモンちゃんだな。俺とは出来が違う。
地図を見て探すなんて、どこの犬にも出来やしねぇぜ。言ってみりゃ天才だな。」と
テツが思いっきり誉めてくれたので、モンちゃんの不機嫌な気持ちは一気に吹き飛んでいった。
「テツ、ほんとにありがとう。みんなによろしく言ってね。」モンちゃんがそう言うと、
「おぅ、少し遠くまで散歩に出た時は寄ってくれよ。ずっと友達だからな。」と言いながら、
テツがモンちゃんの鼻先を前足でひょいっとなでた。
少し慣れてきたから上手によけたけど、ほんとは痛いんだよ、テツ。
でも、ほんとにうれしかった。いつまでも友達だね。心から、ありがとう。

病院に戻ると、中庭に出ていた患者さんたちが一斉に駆け寄ってきた。
「モンちゃんじゃないか!元気だったのか。よく戻ってきたなぁ・・・。」
そこにいるすべての人が、モンちゃんが戻ってきた驚きと喜びを口にした。
やがて病棟やケア棟の人たちも騒ぎに気づいて中庭に出てきたので、
病院はまるでお祭りのように一気に賑やかになった。
今回のモンちゃんの脱走について「前の飼い主の人のお墓参りに行っていたんですよ。」と
先生が説明すると、「それはすごい。」「やっぱり漢字が読めるだけのことはあるね。」と
患者さんたちは口々にみんなでモンちゃんを褒めちぎってくれた。
嬉しくて嬉しくて、モンちゃんが辺り構わずぴょんぴょん飛び跳ねていると、
功太君も負けじとより高く跳びはねようとして転びそうになったりしている。
それを見て冴子さんだけでなく周囲の人たちも心から楽しそうに笑うのだった。

 「モンちゃん、本当に良かったねぇ。たくさんの人にこれほど愛されて、世界一幸せだねぇ。」
少し遠くからミヨさんの声が聞こえてきた。
そうだ。僕はミヨさんと出会って大切にされた上に、ひょんなことから字も読めるようになった。
ミヨさんのために買い物に出かけたり、僕なりに役に立てて本当に嬉しかった。
この病院でも先生や患者さんたちに可愛がってもらってみんなに必要とされている。
それに今回の脱走を通じて、テツというかけがえのない友達も出来た。
僕ほど幸せな犬はきっと日本中探してもあまり居ないだろう。
「モンちゃん、これからはもっと、モンちゃんの気持ちを考えられるように頑張るからね。」
先生、そんなに頑張らないで大丈夫だよ。今のままで、僕はじゅうぶん幸せだから。
ただ、テツに会いたくなった時は走り出しちゃうかも知れないから、
その時は僕の帰りを気長に待っていてね。もう、道は完璧に覚えたし、地図も読めるからね。
自分を取り囲む人々のこぼれるような笑顔を眺めながら、ここでこうして大好きな人たちのために
生きていくことの幸せにあらためて気づいたモンちゃんを、
風に姿を変えたミヨさんが後ろから愛おしそうに抱きしめていた。

              ー終わりー


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降龍十八章

とうとう終わってしまいましたね。
最後にミヨさんが、風になって包みこんでくれた。鮮やかな終末です。
この前の透き通った5月の風、という表現がいったい何をあらわすのか考えていたのですが、ミヨさんが正体だったんですね。すばらしい!
by 降龍十八章 (2005-11-24 11:36) 

はなぽん

降龍さん、最後までずっと応援して下さってありがとうございます。
誉めていただくたびに木に登りながら、
それでも少しずつ成長出来た気もしております。本当に感謝です。
初めて書いた「ボクが選んだボクの人生」に対する愛着とはまた違った、
モンちゃんを抱きしめたくてたまらない感覚があたたかく残っていて
どうにも寂しくてなりません。
おそらく、いつの日か続編を書かずにはいられないと思います。
「モンちゃん、かけ算九九を覚える」なんてね。
その時はまた、いろいろ教えて下さいね。
by はなぽん (2005-11-24 11:56) 

時売り −ある時間商人の話−

執筆お疲れ様でした。
前作に続いて心温まる物語で、読んでいて気持ちが良かったです。
魅力的なキャラクターばかりで、続編を期待せずにはいられません。
GBA2005の締め切りまではまだ間がありますし、
次回作も楽しみに待たせていただきます。
by 時売り −ある時間商人の話− (2005-11-24 12:37) 

はなぽん

トキタさん、ありがとうございます。
テレビをつけると悲しいニュースばかり。思わず気持ちが荒んでしまいます。
せめてお話の中だけでも、心がほわっとあたたまるようでありたい、
そう願いながら書き進めてきました。
とはいえ、初心者ならではの稚拙さやひとりよがりな面もたくさんあって、
みなさんには辛抱強くおつき合いいただいたことを感謝せずには
いられません。
本当にありがとうございました。
by はなぽん (2005-11-24 12:48) 

ayazou

 なんだか、最後にミヨさんがモンちゃんを抱きしめているところ、とか思い浮かべただけで、じーんと来ました。この素敵な物語に出会えて、とても嬉しかったです。
 私も次回作を楽しみにしてます!
by ayazou (2005-11-24 19:54) 

はなぽん

アヤ蔵さん、ありがとう!
まだまだ技術的にも未熟な私ですが、いい経験になりました。
読んでくれる人が居るから頑張れるので、
一人では毎日続けられなかったと思います。
心から感謝ですm(_ _)m
by はなぽん (2005-11-24 22:59) 

降龍十八章

流れ星銀のごとく、親子4代の物語になることを期待しています。
モンちゃんにいいお嫁さんを見つけてください。
by 降龍十八章 (2005-11-25 00:15) 

いい終わり方ですね。「天才」出たし。
最後の一文いいですね。(^_^)
本作も、前作「ボクが~」同様、心温まるいい話でした。
毎日の執筆、お疲れさまでした。
by (2005-11-25 01:28) 

はなぽん

降龍さん☆秋見さんへ

☆降龍さん、ありがとうございます。モンちゃんにお嫁さん、っていうの
ステキなアイディアですね。先ずは恋をしなくては♪楽しみだなぁ。

☆秋見さん、いつも支えて下さって本当に感謝しています。
毎日、というのは初心者の私にとってかなり修業になった気がしています。
「天才」はずっと気になっていて、どこかで出したいなぁ、と悩んで、
「そうだ!テツがいた!」と思いついたんです。テツ、ほんとにいいヤツ。
彼の登場がなければ、こんな感じで続けられませんでした。
書き進める中で新しい出会いがあり、皆さんの助言で
話が違う方向に動いたりもして。
出会いってホントに素晴らしいと思います。ありがとう(^_^)
by はなぽん (2005-11-25 07:38) 

Chip

Suzu-papaさんの所から初めて飛んできて、一気に読ませていただきました。
とっても優しいお話で、とても良かったです。この様な文章が書けるなんて、なんて素晴らしいんだろう。
モンちゃんの能力が開花したのは、お婆さんの愛情を一杯受けていたからだと思います。早速、家に帰ったらうちのワンコ共にモンちゃんの事を話して聞かせますね^^
by Chip (2005-12-08 14:14) 

はなぽん

Chipさん、初めまして!
全部読んで下さったんですか?嬉しいです・・・。
書き終わってしばらく経つので、今読んでいただけたというのが
とても感激です・・・。モンちゃんも喜んでいると思います(わん!)
ChipさんってディズニーのChip、なんですね!可愛い!
わんちゃんたちにもよろしくお伝え下さいね。
by はなぽん (2005-12-08 16:27) 

小島澪

最後までほのぼのして楽しい物語でした。
今年の年末は寒々しいニュースが続いていますが、
モンちゃんと周囲の人たちのことを想像して、あったかい気持ちになれました。
幸せってこういうことなんですよねえ。
by 小島澪 (2005-12-18 14:04) 

はなぽん

小島澪さん、こんにちは!
年末に入って気ぜわしい日々が続いていますが、
お元気でしたか?
モンちゃんを書いている間が一番楽しかったなぁ。
今、何だか空虚感が漂ってます。なかなか治らないの。
それを忙しさで埋めている、といった感じです。
読んで下さってありがとう!
by はなぽん (2005-12-18 14:07) 

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