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見えないピアノ 1 [見えないピアノ(自叙伝、のような)]

人生、何が幸いするか分からない。
私の頭の中に「見えないピアノ」があるのは、あの日のおかげだ。

その頃まで、我が家は裕福だった。小さいながらも会社を経営する父は、
さほど子煩悩な方ではなかったが望みは何でも叶えてくれた。
ピアノと電子オルガンも、当たり前のように部屋に置かれていた。
そんなある日。私たち家族を取り巻く状況は一変した。
父の部下が会社の財産を全て持ち逃げしたのだ。
身内にもあたるその人に実印も預けていたお人好しの父は、
突然大きな借財を抱えることになった。

さあ一大事だ。当時小学生だった私は、突然踏み込んできた男達が
ピアノと電子オルガンを持ち出そうとするのを必死で止めた。
あの人達は何だったのだろう。借金取りなのか、差し押さえにきた人たちなのか。
母に聞いてみればいいようなものだが、悲しいことを思い出させるに忍びないので
確認は出来ずにいる。ともあれ、私が足にしがみついて懇願したにもかかわらず、
その人達はあっという間にピアノと電子オルガンを運び出し、
買ってもらったばかりの音楽事典までも持って行ってしまった。
残されたのは何冊かの楽譜と紙鍵盤。
時代は昭和、簡単に持ち運べるキーボードなんてまだなかった頃の話である。

ー続くー


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コメント 7

 エッセイということは、実話なんですよね。衝撃的な導入にびっくりしています。続きがものすごい気になります。
by (2005-12-06 22:43) 

はなぽん

秋見さん、こんばんは。そうなんですよ。実話です。
むしろ、少し割り引いて書いています。あまり悲惨だとみんなひいちゃうから。
ことさらに悲劇的になると、脚色っぽいでしょ。それ、ヤダから。
出来るだけ淡々と書き進めたいと思っています。
実際、自分の身の上に起きたことなのに、
何だか他人事のような感覚なんですよ。人間の記憶って
便利に出来ていますねぇ。上手いこと、すぅーっと消えかけているの。
ぼちぼちと思い出しながら書きますね。
by はなぽん (2005-12-06 23:49) 

降龍十八章

つづきものでしたか!気づきませんでした。すごい人生じゃないですか。
うんと悲惨にかいても、ひきませんよ。最近、芥川(茶川じゃないよ)の地獄変を読み返しているので、ちょっとやそっとではひきません。
by 降龍十八章 (2005-12-07 23:12) 

ikiteiku

こんばんはぁ。はじめまして。ともです。
「その後はいったいどうなってしまったんだろう」
その事が気になってしかたないです。
スゴイ人生されてますねぇ。
続きが気になります。
by ikiteiku (2005-12-07 23:28) 

はなぽん

降龍さん☆ともさんへ

☆降龍さん、こんばんは。続き、ありますよー。
ひかない?そうですか。では思い切って!
・・・でも、文章力に限りがあるので、なかなか続きが上手く書けません。
がんばりますねー。

☆ともさん、初めまして!
続きが遅くなっていて済みません。明日・・か・・明後日・・・には
どうにか出せると思います。気にしていただいて嬉しいです。
by はなぽん (2005-12-07 23:32) 

秋桜さん、こんにちは。
実は大変な道を歩まれたのですね。
今の、いつもピアノの近くにいられる生活は、
きっと神様が「頑張ったね」とくださった
ご褒美ですね。
by (2005-12-10 11:50) 

はなぽん

凛香さん、こんにちは。
本人は意外と「大変だった」という意識はないんです。不思議と。
何だか、あらためて思い出してみると大変だったかも知れない、という
他人事みたいな感覚があります。
変ですねー。
by はなぽん (2005-12-10 16:04) 

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