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見えないピアノ 2 [見えないピアノ(自叙伝、のような)]

 それから間もなくして、母の故郷である小さな町へ移り住んだ。
自然に囲まれた穏やかな町の小学校には、談話室のような部屋があって
誰もが自由に出入り出来るようになっており、ピアノが一台設置されていた。
転校してしばらくは少々の遠慮もあってピアノに近づけないでいたけれど、
ある時どうにも辛抱しきれなくなってピアノの前に座った。何を弾いたかは覚えていない。
小学生の女の子のことだから、エリーゼのために、あたりであろうか。
ともかく、その町ではピアノを弾く子が少なかったせいもあって珍しがられ、
他の場所で遊んでいてもピアノの前に連れてこられるようになった。
小さな町のことだから、生徒数もたかが知れている。毎日同じ顔ぶれに同じ曲では
あまりにも芸がないので、覚えている限りの曲を引っ張り出して弾いていたが、
そのうちに「リクエスト」が来るようになった。
音楽の教科書に載っている曲もあれば、テレビで流れてくる歌謡曲もある。
ここで「弾けない。」と言ってしまったら終わりだ。
ピアノの前に居られる大切な時間を失うことになりかねない。子どもながらに必死だった私は、
主旋律に加えて左手の伴奏を可能な限りひねり出して演奏を続けた。
自宅に帰れば、ピアノに触ることは出来ない。
頭の中で鳴っている音を確認する手段はなく、毎日がぶっつけ本番であった。
思えば私の中の「見えないピアノ」の骨組みは、その頃作られていったのだ。

ー続くー


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降龍十八章

あらためて、凄い!人生ですね。
まるで、少女漫画のヒロインのような境遇ですね。
by 降龍十八章 (2005-12-08 15:48) 

はなぽん

降龍さん、こんにちは。
少女漫画で思い出しましたが、当時買ってもらえなかったんです、漫画。
だから、今ひとつ疎いの。寂しい話ですねー。
今の世の中はものが溢れていて、不自由することが少ない。
幸せ、ですよね。私も今は何も不自由していないので
感謝しなくては。
by はなぽん (2005-12-08 16:30) 

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