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見えないピアノ 3 [見えないピアノ(自叙伝、のような)]

転校生が毎日のように談話室でピアノを弾いていれば快く思わない人が居ても不思議はない。
学年の違う人たちは気持ちよく接してくれていたが、
同級生の、特に女の子からは無視されることも少なくなかった。
そんなある日、富江ちゃんという女の子が、一人運動場に居た私に話しかけてくれた。
今にして思えば、学校の中で私と遊ぶのは周囲の手前ためらわれたのであろう。
彼女は自分の家に遊びにおいで、と誘ってくれた。それだけで充分嬉しいのに、
何と彼女の家には電子オルガンがあったのだ。言い方は悪いが、まさしく渡りに船。
優しい友人を得た上にオルガンを弾かせてもらえるなんて。
遊びに来たのにひたすら何時間もオルガンの前で好きな曲を弾いている私を
責める様子もなくニコニコと聴いてくれている富江ちゃんを、女神様のようだ、と思った。
それからしばらくしてまた転校してしまったので、富江ちゃんがどんな大人になったのかは
知ることが出来ないが、きっととびきり優しいお母さんになっていることだろう。

以前住んでいた町に戻って中学に進んでからは、
どうにかしてピアノに触りたい一心で、音楽の先生に好かれるよう努力し、
その甲斐あって何かの集まりの際に体育館で演奏させてもらえるようになった。
「なった」のはいいが、自宅には相変わらず紙鍵盤しかない。
先生にそれを告げれば、演奏を断られるに決まっている。
何が何でも渡された楽譜を頭の中で音にして、ほとんどぶっつけ本番で演奏するしかなかった。
上手く行った時の快感は今も忘れがたい。「見えないピアノ」の成長期、である。

ー続くー


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コメント 7

 秋桜さんにとっては、ピアノは運命共同体みたいな、拠り所だったのですね。環境にめげずしっかり生きている秋桜さんにnice!です。
by (2005-12-10 14:56) 

はなぽん

秋見さん、いつもありがとう。
そうですねー。きっと私の背骨みたいなものだろうと思います。
おそらく音楽がなかったら今の私は此処にいないはずだし・・・。
母が明るく楽天的な人だったこともプラスに働きました。
その辺を明日以降書けるといいな、と考えています。
by はなぽん (2005-12-10 16:06) 

ayazou

 どうも。こんばんは、
この物語は秋桜さんの自伝なんですか?
私の家も実は父親が小さい会社を経営しています。と言っても、以前は有名な大手企業で働いていたのですが、不況でリストラされて、脱サラしたのです。
ピアノは小学校と中学校の時、習ってました。未だに家にありますが、残念ながら最近は余裕がなくて弾いてません。
この主人公みたいに何かに夢中になることってすばらしいですよね。
by ayazou (2005-12-10 20:16) 

ヘコタ

 秋桜さん、こんばんは。
 「見えないピアノ」に、なにやら幼いころの夕日のセピア色を覚え、
懐かしく読ませていただいております。私は昭和20年代後半の生
まれですが、同世代でしょうか。それは、ともかく、近いうち、昔話シ
リーズが一段落したら、「学問としての昭和」(ウソ)を大いに語りた
いですね。ただし、懐かしがるのだけはやめます。老化が加速する
だけですから。
by ヘコタ (2005-12-11 00:13) 

はなぽん

アヤ蔵さん☆ヘコタさんへ

☆アヤ蔵さん、こんばんは。
えっへん。今日は夜更かししております。威張ってる場合じゃないか。
エッセイなので、ぜーんぶホントのことです。
アヤ蔵さんのお父様、大変な日々を乗り越えて来られたのですね。
出来るだけ親孝行してあげて下さいね。それからピアノも可愛がってね♪

☆ヘコタさん、こんばんは。
世代は、私の方が下、です。でも、気持ちは近いのでは。
洗濯機の横にくるくる回して絞る脱水機がついているの、
見たことがある世代です。昭和の話、してみたいです。
楽しみにしてますね!
by はなぽん (2005-12-11 00:46) 

降龍十八章

紙の鍵盤とは泣かせますね。それで、タイトルの『見えないピアノ』の意味が分かりました。題名にナイス!です。
にしても、音符で音を覚えるとは神業です。神の鍵盤?
by 降龍十八章 (2005-12-11 21:15) 

はなぽん

降龍さん、こんばんは。
音符で音を覚える、というのかな、ちょっと難しいんですが、
楽譜を見て、それを頭の中で音にして、音で覚えるという感じです。
楽譜そのものを覚えるのはとても苦手で、
いったん音にしてアタマで鳴らしてしまいます。
だから、時として覚え間違いもあります。勝手に音をかえてしまって。
by はなぽん (2005-12-11 23:52) 

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