見えないピアノ 6 [見えないピアノ(自叙伝、のような)]
ハモンドオルガンを買った楽器店に併設された教室で、週に一度レッスンを受けることにした。
紹介されたK先生は小柄な女性で、一曲仕上がるたびに
楽譜の隅っこに小さな字で片仮名の「ス」を書いた。
楽器が弾ける喜びのあまり次から次に新しい曲を練習しては教室に向かった私の楽譜には
たちまち小さな「ス」の文字が並び、私は演奏できたうれしさと共に
何とも控えめでかわいい先生の「ス」を微笑ましく思っていた。
そんなある日のこと、ちょっと事情が変わったので別の先生のところに行ってはくれないか、
と先生が申し訳なさそうに切り出した。
ほかの生徒さんの都合か何かだろうか。残念だけれど、事情があるならば仕方がないと思い、
次の週には新しい先生の元に向かった。
新しい先生は、楽器店の教室ではなく自宅で教えて下さることになっていた。バスを降りて
少し細い路地のような道を入っていくと、音楽教室の看板が掲げられた広い家があった。
この出会いが、のちに私の人生を大きく変えることになる。
新しい先生はとても明るい女性で、人を惹きつける不思議な魅力にあふれた人だった。
たくさんの生徒をかかえ、忙しく活動しておられる先生をあこがれにも似た気持ちで眺めながら、
私はオルガンを弾ける喜びに満たされていた。その頃先生から聞いた話では、
友人であるK先生から「私じゃ手に負えない生徒がいるから、貴女面倒看てくれる?」と
依頼されたのが私だそうだ。
半年ほど経った頃だろうか、レッスンが終わる頃に先生が
「今から野球の仕事に行くから」と教えてくれた。
「野球の仕事って何ですか?」と驚いた声で尋ねる私に、
「プロ野球の試合中に演奏する仕事のことよ。」と先生が言う。
何だって?信じられない。あの球場で鳴り響いていたオルガンを、
私の目の前にいる先生が演奏していたなんて。
「私、野球が大好きだから、学生の頃から何度も球場に行ってたんです!」と先生に話し、
無理に頼み込んで球場に連れて行っていただいた。
試合開始前の演奏が始まると、私が球場を訪れるたびに
「一体どんな人が演奏しているんだろう。」と想像し憧れていたその音が
オルガンからほとばしるように流れてきた。
ー続くー
いったい、どこの球場でしょうか?ドラマのようなお話ですね。大リーグではおじいちゃんがオルガンを弾いているのを特集で見たことありますが。
そういえば、レストランでも生演奏ありますよね。そっちの経験はいかがでしょうか?
ボクは小学生のとき、母の従姉妹がピアノの先生で、発表会で花束贈呈の役をやらされました。本当にコッパズカシかったですね。
by 降龍十八章 (2005-12-20 09:38)
降龍さん、こんにちは。
今はもうなくなりましたが、平和台球場です。
その後福岡ドームに移り、ホークスのオーナーがダイエーさんの間
仕事していました。
レストランでは演奏したことないんですよ。結婚披露宴では
ずいぶんとお仕事させていただきました。
花束贈呈って恥ずかしいですよねぇ。身内ならばなおさら。
私も息子に頼んだことがあります。懐かしいです。
by はなぽん (2005-12-20 14:53)
すごい人と出会ったのですね。K先生が手に負えない、って秋桜さんが上手いからでしょうか。それにしても、なんで「ス」なのか気になっている秋見でした。
by (2005-12-21 22:20)
秋見さん、こんばんは。
風邪の具合はどうですか。咳、軽くなりましたか。
手に負えないのは、タイプが違ったからかも知れないです。
次から次に新しい曲を弾きたがる落ち着かない生徒でしたからねー。
「ス」は、先生に聞いてみたんですよ。
そしたら「済み」という意味だと教えてくれました。
ならば「済」と書くと分かりやすいなぁ、と思いつつも
「ス」という小さな小さな字が意外と忘れられなかったり。
今もその頃のテキストはとってあるので「ス」は見ることが出来るんですよ。
by はなぽん (2005-12-21 23:40)
本当だ。プロフィールに福岡とありますね。ブログは距離感がないですねぇ。
平和台がどこだったか忘れてしまった元野球少年です。
by 降龍十八章 (2005-12-25 21:46)
降龍さん、こんばんは。
そうなんです。今はもうなくなってしまった平和台。
遺跡が発掘されたんですよ。鴻臚館っていう。
この前バスで通ったら、バス停の名前も
「平和台鴻臚館前」に変わっていました。
by はなぽん (2005-12-25 22:14)
はじめまして。雲の彼方からやってきました。突然、唐突、時間遅れ!
で、申し訳ないのですが、・・・。
この続きがぜひ知りたいです。このあと、秋桜さんはどうなっていくんですか?
ワクワク・・・。(^-^)
by 武田のおじさん (2006-01-10 15:50)
武田のおじさん様、初めまして!
ああ、ごめんなさい。ほんとに筆が遅くて、ご心配おかけしてます。
明日から少しずつ書くことを再開しようと思います。
年末年始、そんなに忙しいわけでもないのに書く気が起きず
とんでもなく長い間放置してしまいました・・・。
よろしかったらまたお見えくださいね。
by はなぽん (2006-01-10 18:48)