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モンちゃん、旅に出る。 [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

「10年」という共通テーマにそぐわなかったこともあって、

ゴールデンブログアワードには応募を見送った「天才モンちゃん」ですが、

とある出版社の賞に応募しました。

今頃、封筒に入れられたモンちゃんは旅のさなか。

目をまぁるくして、都会の景色を見ることでしょう。

さしずめ、「モンちゃん都会に行く」といったところです。

こちらでは応募できませんでしたが、

一日も休むことなくモンちゃんを書き続けられたのは

ここに来て下さる皆様のおかげに他なりません。

賞にひっかかる可能性は限りなくゼロパーセントに近いと思われますが、

超初心者の私がとにもかくにもあの長さの(といっても100枚くらいです)

作品を書き上げられたことは、生きていく上での自信につながりました。

本当にありがとうございました。


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天才モンちゃん今日も行く(最終話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 川森小学校の前まで来ると、モンちゃんは自分が地図を読めたことを少しだけ自慢したくて
功太君の袖口を軽く噛んで掲示板の所まで引っ張っていった。
どちらかというと勘が良くて、モンちゃんの才能もよく理解してくれている冴子さんだが、
さすがにモンちゃんがこの地図を見てお墓を探したということには思い及ばず
「功太も大きくなったら小学校に行くんだね。」と話すにとどまり、頼みの綱の先生も
「そうだねぇ。まずは来年、幼稚園かな?」と言うだけだったので
モンちゃんは誉めて貰い損なったことに少しだけ不機嫌になった。
「モンちゃん、どうしたの?何か怒ってるの?」と功太君が話しかけながら
モンちゃんの耳をつまんだりしていると、脇道から一匹の犬が飛び出してきた。

 「モンちゃんじゃねぇか!」と叫びながら現れたその黒い犬は、テツだった。
「テツ!会えて良かった!僕の探していた飼い主のミヨさんのお墓が見つかったんだよ。
お参りしていたら、病院の先生と飼い主の人の家族にも会えたんだ。」と報告すると、
「そりゃあ、何よりだったなぁ。頑張った甲斐があったじゃねぇか。
それにしてもよく見つけたなぁ。どうやって探したんだ?」とテツが言う。
モンちゃんは嬉しさに「学校の前にあるあの地図を見て分かったんだ!」とテツに伝えた。
するとすかさず「さすがはモンちゃんだな。俺とは出来が違う。
地図を見て探すなんて、どこの犬にも出来やしねぇぜ。言ってみりゃ天才だな。」と
テツが思いっきり誉めてくれたので、モンちゃんの不機嫌な気持ちは一気に吹き飛んでいった。
「テツ、ほんとにありがとう。みんなによろしく言ってね。」モンちゃんがそう言うと、
「おぅ、少し遠くまで散歩に出た時は寄ってくれよ。ずっと友達だからな。」と言いながら、
テツがモンちゃんの鼻先を前足でひょいっとなでた。
少し慣れてきたから上手によけたけど、ほんとは痛いんだよ、テツ。
でも、ほんとにうれしかった。いつまでも友達だね。心から、ありがとう。

病院に戻ると、中庭に出ていた患者さんたちが一斉に駆け寄ってきた。
「モンちゃんじゃないか!元気だったのか。よく戻ってきたなぁ・・・。」
そこにいるすべての人が、モンちゃんが戻ってきた驚きと喜びを口にした。
やがて病棟やケア棟の人たちも騒ぎに気づいて中庭に出てきたので、
病院はまるでお祭りのように一気に賑やかになった。
今回のモンちゃんの脱走について「前の飼い主の人のお墓参りに行っていたんですよ。」と
先生が説明すると、「それはすごい。」「やっぱり漢字が読めるだけのことはあるね。」と
患者さんたちは口々にみんなでモンちゃんを褒めちぎってくれた。
嬉しくて嬉しくて、モンちゃんが辺り構わずぴょんぴょん飛び跳ねていると、
功太君も負けじとより高く跳びはねようとして転びそうになったりしている。
それを見て冴子さんだけでなく周囲の人たちも心から楽しそうに笑うのだった。

 「モンちゃん、本当に良かったねぇ。たくさんの人にこれほど愛されて、世界一幸せだねぇ。」
少し遠くからミヨさんの声が聞こえてきた。
そうだ。僕はミヨさんと出会って大切にされた上に、ひょんなことから字も読めるようになった。
ミヨさんのために買い物に出かけたり、僕なりに役に立てて本当に嬉しかった。
この病院でも先生や患者さんたちに可愛がってもらってみんなに必要とされている。
それに今回の脱走を通じて、テツというかけがえのない友達も出来た。
僕ほど幸せな犬はきっと日本中探してもあまり居ないだろう。
「モンちゃん、これからはもっと、モンちゃんの気持ちを考えられるように頑張るからね。」
先生、そんなに頑張らないで大丈夫だよ。今のままで、僕はじゅうぶん幸せだから。
ただ、テツに会いたくなった時は走り出しちゃうかも知れないから、
その時は僕の帰りを気長に待っていてね。もう、道は完璧に覚えたし、地図も読めるからね。
自分を取り囲む人々のこぼれるような笑顔を眺めながら、ここでこうして大好きな人たちのために
生きていくことの幸せにあらためて気づいたモンちゃんを、
風に姿を変えたミヨさんが後ろから愛おしそうに抱きしめていた。

              ー終わりー


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天才モンちゃん今日も行く(第三十四話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 満開の桜並木の下をミヨさんとのんびり散歩をする夢を見ながら
気持ちよく眠っていたモンちゃんの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「あ、モンちゃんだ!」「ほんと!モンちゃんが、モンちゃんがお墓に居ますよ、先生!」
「えっ?モンちゃんがここに?どうして?」「モンちゃんだ、モンちゃんだ!」
ずいぶん賑やかな夢だなぁ、と思いながらも、熟睡していたモンちゃんの目はなかなか開かない。
とりあえず右の目を少しだけ開けて、声のする方をじーっと見つめてみる。
どうも、夢ではなさそうだ。何人かの人影が、モンちゃんの方に早足で近づいてくる。
目をこらしてよく見ると、ようやくその人たちの顔が少しずつはっきりとしてきた。

 「どこに行ってたの、モンちゃん。心配したんだよ。無事で良かった・・・・。」と言いながら、
川橋先生が駆け寄ってきてモンちゃんの背中に両手を置くと、
「モンちゃん、もしかしてお母さんのお墓にお参りしたかったの?。」冴子さんが少し涙声で言う。
「モンちゃん、おはかでねんねしてたの?ねぼすけだなぁ。」と言いながら
モンちゃんの顔を覗き込んで無邪気に笑っているのは功太君。
前よりも少しおしゃべりが上手になってきているようだ。
「そうだったんだ。モンちゃん、きっとお墓参りをしたかったんだね。
気づいてあげられなくて本当にごめんよ。僕が一人でお墓に行ったりしたから・・・。」
少しかすれた声でそう言いながら、先生は目に涙を浮かべている。
僕の方こそ、勝手にいなくなってごめんね、と先生に言葉で言えない代わりに
先生の膝に顎を乗っけて、その潤んだ目を見あげて「わん!」と小さく吠えた。
「先生から連絡があった時は、もう二度とモンちゃんに会えないかと諦めていたけれど、
お母さんがこうして引き会わせてくれたのね。よかった、本当によかった・・・。」
たまらず声をあげて泣き始めた冴子さんの様子に驚いた功太君が、
「お母さん、モンちゃん怖いの?大丈夫だよ。モンちゃんはおりこうだからかまないんだよ。」
と言ったものだから、泣いていた二人も思わず吹き出してしまった。

冴子さんと先生がお墓の掃除をする間、モンちゃんは功太君とかくれんぼをして遊んであげた。
お掃除が終わると皆で手を合わせ、モンちゃんと会えたことに感謝してお墓を後にするのだった。
「商店街の方々にいろいろお世話になったので、ちょっと寄ってお礼を言いたいんです。」
と冴子さんが言い、回り道をすることになったのを聞いてモンちゃんは嬉しかった。
ここに来る前に水田のおじさんが挨拶してくれたのに、
ちゃんとお返事しないで走り出してしまったことを申し訳ないと思っていたからだ。
商店街に着くと水田のおじさんはいつものようにしゃがれた声で
「今日はトマトのいいのが入ってるよ。」とお客さんに勧めている。
ゆっくりと皆で近づいていくと、おじさんはとても驚いた表情で
「これはこれは、みんな揃ってどうしたんですか。モンちゃんといっしょにお使いですか?」と尋ねた。
「この前もね、モンちゃんが遊びに来てくれたから田中さんとこに行ってコロッケを分けてもらって。
ところが食い終わったと思ったら道台寺の車の後を追っかけてものすごい速さで走ってったから
大丈夫かなって心配してたんですよ。」というおじさんに、
「そうだったんですか。モンちゃん、こちらにお邪魔してたんですね。」と先生が答えると
「今朝もね、またこの辺りまで来てくれてたんだけど、何だかやけに急いでたみたいでね、
ダーッと走ってっちゃったの。モンちゃん、あまり急ぐと車にぶつかるぞ。」とおじさんが続けたので、
モンちゃんはお詫びの気持ちをこめて丁寧な「お手」をしてあげた。

「モンちゃんは、こちらに来れば何か分かるかも知れないと思って来てみたのかも・・。」
冴子さんが独り言のようにそうつぶやくと、
「どうしたんです?何かあったんで?」とおじさんが聞き返したので、
モンちゃんがしばらく行方不明になった後、
ミヨさんのお墓に居たことを話すと、「だから道台寺さんの車を追っかけてったってわけか。
やっぱりモンちゃんは俺よりもずっと賢いなぁ。はっはっは!」と大きな声で笑った。
総菜屋の田中さんや他のお店の人たちにも挨拶を済ませて、
商店街を背中に歩き出した3人とモンちゃんを、5月の透きとおった風が追い越していった。

ー続くー


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天才モンちゃん今日も行く(第三十三話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 道台寺を目指して走っていると、周囲の景色が急に見慣れたものに変わった。
どうやら、ミヨさんが何度となく散歩に連れてきてくれた場所のようだ。
ならば何故、散歩の時に道台寺まで足を伸ばして連れてきてくれなかったのだろう。
亡くなったおじいさんのお墓だってきっとあったはずなのに。
疑問に思いながらも走り続けていると、道は緩やかな上り坂になり、
そのまま小高い丘の上に登っていくと「道台寺」と書かれた古いお寺が姿を現した。
鮮やかな緑色の若葉をつけた桜の木の下を進むと奥に墓地があって、
その手前の石の柱に大きな犬がつながれている。

 「モンちゃん、気をつけて!」ミヨさんの声が聞こえた。「その犬がいるから、
モンちゃんと一度もここに来れなかったの。体が大きい上にとんでもなく大きな声で吠えるのよ。
モンちゃんにもしものことがあったら、と思うともう怖くて・・・。」
そうだったんだ。ミヨさんは僕のことを心配して、一人でお墓参りに来ていたんだね。
ミヨさんのやさしい顔を思い出しながらモンちゃんが前を通り過ぎようとすると、
その犬は
「ようこそいらっしゃいました!ごゆっくりとお参りなさって下さい!」
と大声で言った。
ミヨさんにはこの挨拶がとてつもなく恐ろしい雄叫びに聞こえていたんだな。
モンちゃんはオナカの皮がよじれて元に戻らないほど大笑いしたあと、その大きな犬に
「ありがとう!僕の大事なミヨさんのお墓を守って下さって感謝しています!」
と負けないくらい大声で丁寧にお礼を述べて先を急いだ。

見逃さないようにゆっくりと、お墓の名前を見ながら進む。
お掃除の行き届いたお墓もあれば荒れ放題のお墓もあって少し切なくなるモンちゃんだったが、
感傷に浸ってばかりもいられないので先に進んでいく。
二十基ほど入念に調べたけれどもまだ見あたらない。
心の中で「ミヨさん・・。」とつぶやいても「あと少しよ。」と聞こえてくるだけだ。
さすがに焦りを感じ始めたモンちゃんが五カ所目の角を曲がったその時、
視界の端っこに「犬」という字がたしかに見えた。でもまだ、安心してはダメだ。
犬山さんだって犬尾さんだって、いるかも知れない。落ち着いて、ゆっくりと確かめよう。
そのお墓の前にきちんと座って、モンちゃんは真っ直ぐに墓碑銘を見つめた。
犬、という字の下にあったのは、間違いなく「走」の字だった。
モンちゃんは何度も何度も、涙が溢れそうになる目を前足でこすって確かめた。
ミヨさんのお墓だ。間違いなく、僕の大好きなミヨさんのお墓だ。
横の名前の所にも「犬走文太郎」さんの隣に「犬走ミヨ」さんって書いてある。
「モンちゃん、諦めないで探してくれて本当にありがとう。本当によく頑張ってくれたね。」
ミヨさんの懐かしくてあたたかい声に安心してしまったのか、
しばらくするとモンちゃんはすやすやと寝息をたてて眠ってしまった。

ー続くー


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天才モンちゃん今日も行く(第三十二話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 翌朝。モンちゃんが目を覚ますとテツが食パンの切れっ端を持ってきてくれた。
「野犬狩りのことを知らねぇ仲間も何匹かいるんで、俺はあちこち見回ってくるからな。
今日は寺探しを手伝ってやれねぇが、何か分かったらすぐに知らせる。」
テツはそういうと駆けだして、あっという間に姿が見えなくなった。
一人になったモンちゃんは、昨日見かけた道台寺の黒い車のことを思い出していた。
あの車を追いかけて走った時、メロスのような気持ちを自然と思い出したのは、
モンちゃんにとってそれが初めてではなかったからだ。
ミヨさんの薬を探しに行ったあの日、同じ道を同じ方角に向けて懸命に走った記憶が
彼の脳裏に鮮やかによみがえった。
もう迷う必要はなかった。あの道を川橋医院の方向へと走ってみれば、
きっと道台寺は見つかるに違いない。モンちゃんは追い風を受けて走り出した。

商店街に着くと水田のおじさんは店先に出ていて、
「おや、モンちゃん。今日もお使いなのかい?忙しいんだなぁ。」と話しかけてきた。
ごめんよおじさん。今日は返事をする時間がないんだ。あとでまた会いに来るからね。
モンちゃんは急いで頭を下げながら先を急いだ。
しばらく走って小学校の前辺りを通り過ぎたところで、誰かが自分を呼んでいる気がして
モンちゃんは立ち止まった。
「モンちゃん。地図を見てみたらどうかねぇ。モンちゃんならきっと地図だって分かるに違いないよ。」
それは、ミヨさんの声だった。思わずあたりを見回したが、もちろんミヨさんの姿はない。
けれど、まるで自分のすぐそばでささやいているようなミヨさんのあたたかい声に、
モンちゃんは動けなくなってしばしその場に立ちつくしていた。
我に返って周囲をぐるりと見回すと、小学校の正門前に町内の掲示板があって、
右半分が地図のように見えたのでモンちゃんは急いで駆け寄って見上げた。
それは間違いなく、この町内の地図であった。少し伸びをしながら眺めると
向かって右の道に面した所に「水田青果店」「田中総菜店」などと書かれていて、
同じ道の一番左端のあたりには「川橋医院」がある。
「この真っ直ぐな道に違いない。」と思いながらさらによく見てみると
ほぼ真ん中辺りには「川森小学校」と書かれていて、赤い矢印と共に「現在地」とある。
モンちゃんは「現在地」という言葉の読み方と意味が今ひとつ分からなかったが
川森小学校がすぐに読めたので「今居るのが赤い印のところだ。」と理解出来た。

さあ、残るは問題のお寺の名前だ。寺、とつく場所はこの地図の中に2カ所。
一つは亮円寺という名前で、もう一つがモンちゃんが探している「道台寺」であった。
商店街から川橋医院に向かう道に対して、亮円寺は右手の少し離れた所に書かれており
一方、ミヨさんのお墓のある道台寺は左手に書かれている。
モンちゃんには亮円寺の「亮」が読めなかったが、何となく見覚えがある気がした。
しばらくじっと考えていたモンちゃんは、はたと思い出した。
野犬狩りのことが書かれた掲示板のあったお寺が、たしかそんな名前だった。
ならば、話は見えてきた。要するに最初に行ったあのお寺と反対の方へ行けばいいのだ。
そう思った瞬間、モンちゃんの茶色い耳に「そうだよ、モンちゃん。よく分かったね。」と
ミヨさんの声が聞こえてきた。
「ミヨさんったら、そんなに僕とおしゃべり出来るなら初めから教えてくれればいいのに。」
とモンちゃんが心の中でつぶやくと、
「ごめんねモンちゃん。どうしても探し出して欲しかったの。あと少しで会えるよ。」と聞こえた。
そうだったんだ。ミヨさんも、本当は寂しかったんだね。
大丈夫だよ。先生の所から逃げ出してテツと会ったおかげでずいぶん大人になったから、
僕は自分の力でそこまで行けるよ。もう少し待っていてね。
道台寺の方角へと走るモンちゃんの横顔は、まぶしいほど大人っぽかった。

ー続くー


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天才モンちゃん今日も行く(第三十一話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 「写真の他に、何か書いてありませんでしたか?」とモンちゃんが恐る恐る尋ねると
白い犬は「いや、他に絵はなかったぞ。写真の下に字はいろいろ書いてあったけど。」という。
写真の下に字があった、と聞いてモンちゃんはあることを思い出した。
交番の前に写真が何枚か貼ってあるのをミヨさんが指さして
「モンちゃん、悪いことをした人はああやって写真を貼られ、
隠れていてもいずれ捕まって牢屋に入れられてしまうんだよ。」と教えてくれたのだった。
どうしよう。脱走したことがばれて、警察に捕らえられてしまうのだろうか。
脱走がそんなに深刻な罪になるとは思いも寄らなかった。大変なことをしてしまった。

 牢屋に閉じこめられている自分を想像して深く落胆しているモンちゃんをよそに、
野犬たちの集会は定刻通り始まってしまった。
「みんな、ちょっと聞いてくれ。明日、この一帯で野犬狩りがあるんだそうだ。
それが何で分かったかっていうとな。おい、モンちゃんよ。こっちに来な。」
テツにそう呼ばれて、モンちゃんはおずおずとみんなの前に出て行った。
「モンちゃんっていうんだけどな。コイツ、字が読めるんだ。すごいだろう。
でな、寺の掲示板に野犬狩りが明日、って書いてあったのをコイツが教えてくれたってわけだ。
だからみんな、明日うまそうなまんじゅうみてぇのがあちこち転がってても
嬉しそうに食うんじゃねぇぞ。命は一つっきりしかねぇんだからな。」

 テツがそう言うと、モンちゃんの写真を見たという白い犬が素っ頓狂な声でこういった。
「あ、思い出したぞ!川っぺりの、お前の写真の貼ってある電柱の辺りで、
モンちゃん!モンちゃーん!って大声で叫んでる奴がいたんだ。あれ、お前のことだったんだな。
俺の名前が顔に似合わずシモンって言うもんだから、慌てて返事しそうになったんだぞ。」
そうだったのか。僕の写真を貼ったのは、川橋先生だったんだ。僕を探してくれてるんだ。
疑問が解け、牢屋に閉じこめられる可能性もなくなって
ホッとしたモンちゃんの肩に右の前足を乗せて、テツは話を続けた。
「コイツはな、最初の飼い主が死んじまって、今は病院で飼われてるんだそうだ。
だけど、どうしても前の飼い主の墓に参りたくて脱走してきたんだと。
おめぇら、ドウダイジって寺を知らねぇか?そんなに遠くじゃないはずなんだが。」
ざっと見回して15,6匹の野犬たちが集まっていたのだが、
「知らねぇなぁ。」「ドウダイって、調子はどうだいって意味か?」などと
空しい言葉が飛びかうだけで、残念ながら新しい情報を得ることは出来なかった。
けれどモンちゃんは、今日のうちに野犬狩りのことをみんなに伝えられた喜びと
川橋先生が貼り紙をしてまで自分を探してくれているという嬉しい知らせのおかげで
今までにないほど前向きな気持ちになっていた。

ー続くー


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天才モンちゃん今日も行く(第三十話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 お寺に着くと、予想通りテツは先に帰ってモンちゃんを待っていた。
「待ってても降りてこねぇから墓の方まで上がってみたけど、
どこにも姿が見えねぇから心配したぞ。どこ行ってたんだ?」
モンちゃんが明日の野犬狩りの掲示を見てテツを探しに行っていたと伝えると
「野犬狩り?そりゃ大変だ。みんなに知らせてやんなきゃ。おめぇが字を読めてよかったなぁ。」
自分が字を読めることが人の役に立つことは今までにもいろいろあったけれども、
まさか自分と同じ犬の仲間を助けることになるなんて。モンちゃんは嬉しさから
自然と「普通の話し方」でテツにお寺の話をすることが出来た。
「あのね、テツ、聞いてくれる?僕が探しているお墓のあるお寺の名前が分かったんだ。」
「おお、そうか!分かったのか。そりゃあよかったなぁ。何て名前だ?」
「道台寺、っていう名前なんだけど。」
「ドウダイジ?どんな字を書くんだって聞いたところで、俺は字なんか読めねぇしなぁ。
とにかく今夜の集会で誰かその寺のことを知らねぇか聞いてみよう。」
テツはそう言うと、モンちゃんの鼻先を前足でひょいっとなでた。
もしかして親愛の情を示してくれているのかも知れないけど、ちょっと痛いよ、テツ。
でも何だか、ホントの友達になれた気がして、モンちゃんはちょっと嬉しかった。

テツと手分けして、それらしきお寺を探しているうちに辺りが暗くなってきた。
何処からかテツが調達してきてくれた弁当の残りを空き地で分け合って食べつつ
モンちゃんが友情についてしみじみと考えていると、じきに何匹かの犬が集まってきた。
さすがテツの仲間だけあって、何となく存在感があって近寄りがたい。
目立たないように出来るだけ小さくなって、桜の木の陰に隠れて立っているモンちゃんに
「お前、どっかで見た顔だなぁ。」と白い大きな犬が話しかけてきた。
「いえ、お会いしたことはないと思いますが・・。」と答えると
「いや、会ったことがあるってわけじゃなくて・・・えーっと。どこだったかな。」
緊張の度合いが最高潮に達したモンちゃんが気を失いそうになっていると
「そうだ!思い出したぞ。川っぺりの電信柱にあった貼り紙の犬だ!」
白い犬は嬉しそうに言うとバタバタと音を立てて激しくシッポを振った。
「お前の写真が、電信柱に貼ってあったんだ。何本もあったぞ。お前、有名な犬なのか?」
僕の写真が電信柱に?しかも一本じゃなくて何本も。一体どういうことだろう。
モンちゃんはあまりの不思議さに、首を右に45度傾けた。

ー続くー


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天才モンちゃん今日も行く(第二十九話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 ドウダイジのゴジュウショクと呼ばれるこの人がミヨさんの葬儀のお坊さんであり、
お坊さんというのは一休さんを読んだ人なら分かるとおりお寺に居るのだから、
この人の後を追いかければ、ほぼ間違いなくミヨさんのお墓の場所が分かることだろう。
そうすれば、今回の脱走計画を無事に終わらせて、川橋先生の元に帰ることが出来るのだ。

 でも、モンちゃんは友達を裏切れるような犬じゃない。
知り合ったばかりだけれど、あのやさしいテツを見殺しになんか出来るはずがないのだ。
僕に体が二つあったならどんなにいいだろう。悔しくて涙が出てきた。
モンちゃんのそんな気持ちも知らずに、田中さんは
「コロッケ、うまかったかい?モンちゃん。」と呑気な顔で言い、
水田さんも「よかったなぁ、お使いのついでがあったらいつでもおいで。」と笑っている。
人間の言葉が話せぬ以上、この気のいいおじさんたちに何を頼むことも出来ない。
ゴジュウショクの後を追うことを諦め、気づかれぬように涙を拭いて
おじさんたちが差し出す掌に「お手」をしてあげてから走り出したモンちゃんの前を、
黒い乗用車がゆっくりとしたスピードで走っていた。
モンちゃんが何気なくその車を見上げると、後ろのガラスに「道台寺」と書かれている。
「さっきの・・・お坊さんの・・・お寺?」とモンちゃんは直感したが、
あの字が本当に「ドウダイジ」と読めるのかどうか確信が持てない。
前に回ってみたら何か分かるかも知れないと考えたモンちゃんは、
ミヨさんのためにメロスになりきって疾走したあの時を思い出してひた走り、
運転している男の人が間違いなくさっきの「ゴジュウショク」であることを見届けた。
よし。「道台寺」だな。字もちゃんと覚えたぞ。これで安心してテツを探せる。
懐かしい商店街をあとにして、モンちゃんは再び走り出した。

テツのいう「町内を一回り」がどの辺りまでなのかは分からなかったが、
もしかするともうあのお寺に戻ってきている頃かも知れない。
今日が「12日」ではないことを祈りながらモンちゃんはひた走った。
すると後方を走ってくる車から、何か声が聞こえる。
立ち止まって聞くと、野犬狩りについて知らせる宣伝カーだった。
「明日、野犬狩りを行います。つきましては・・・・。」
モンちゃんは思わず飛び上がりそうになった。明日、とたしかに聞こえた。
これで今日のうちにテツとその仲間が危ない目に遭うことはなくなった。
モンちゃんは心の底から安堵し、テツと別れたあのお寺の方角を目指して走り始めた。

ー続くー


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天才モンちゃん今日も行く(第二十八話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 八百屋の水田さんはどうしているだろう。僕を覚えてくれているだろうか。
モンちゃんが少し離れたところから八百屋の方を眺めていると、
小さなかごを手に持った水田さんが店の奥から姿を現した。
お客さんに、サービスだと言ってミカンを渡している。相変わらずだ。
モンちゃんはお客さんが帰るのを見計らって水田さんのところへ駆け寄った。
「モ・・・・モンちゃんじゃないか!よく来てくれたなぁ。元気だったかい?」
おじさんはモンちゃんのことをすぐに思い出してくれたばかりか、
体じゅうの毛がグシャグシャになるほど思いっきりなでてくれた。
「おばあちゃんがあんなことになっちゃったから、モンちゃんも大変だったよなぁ。
川橋病院の若先生が引き取ってくれたんだって?娘さんから聞いたんだけど。」
さすが冴子さんだなぁ。周囲の人たちに僕のことまで話しておいてくれたんだ。

「ところで、川橋先生のとこに居るはずなのに、どうして一人でこんなとこに?
分かったぞ。モンちゃんのことだから先生のお使いもやってるのか。偉いなぁ。」
そうじゃないよ、と潤んだ目で訴えてみたがおじさんには伝わらない。
「おじさんの店にはモンちゃんの好物はないからなぁ。角の田中さんとこに行ってみるか?」
水田のおじさんは以前と少しも変わらぬしゃがれた声でそういうと、
ミヨさんがいつもコロッケを買ってくれていた角の総菜屋に連れて行ってくれた。
「田中さん、覚えてるかい。犬走さんとこに居たモンちゃんだ。遊びに来てくれたんだよ。」
いつの間にか、お使いかたがた遊びに来たモンちゃん、ってことになっている。
「おお!モンちゃんじゃないか。久しぶりだなぁ。よく来たね。コロッケ、懐かしいだろう。ほれ!」
懐かしさと相まって涙が出るほど熱いコロッケを少しずつ大事に食べていると
恰幅のいい年配の男の人が店の前を通りかかった。

「お、ご住職。いいお天気ですね。先日はお世話になりまして。」田中さんが挨拶すると
「おお、これはこれは道台寺のご住職。お久しぶりです。」と水田さんも頭を下げている。
ゴジュウショクって何だろう。五十食?ちょっと美味しそうだな、とモンちゃんが思っていると
水田のおじさんが「お、そうだ。ご住職、この子はね、モンちゃんっていって
亡くなった犬走さんが可愛がっていた犬なんですよ。」と紹介してくれた。
するとその男の人は「そうでしたなぁ。たしかお通夜の時には庭につながれていて。
大人しくてお利口にしていたからよく覚えていますとも。」と言う。
あの時のお坊さんだ!ハンチングなんかかぶって洋服を着てるから気づかなかったが、
ミヨさんのお通夜とお葬式に来てお経をあげてくれたお坊さんに間違いない。
お坊さんならお坊さんと言えばいいのに、何でゴジュウショクなんだ、と不満に思いながらも、
ミヨさんのお墓に関する有力な手がかりを得たモンちゃんの目は輝いた。

ー続くー


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天才モンちゃん今日も行く(第二十七話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 「明日」と書いてあるのだから、急がなくてもいいように思えるが、
あの掲示板に書いてあった「12日」というのが果たして実際に「明日」なのか。
そこがモンちゃんの一番気にかかるところだった。
ミヨさんと暮らしていた頃には日めくりも眺めることが出来たし、
毎朝ミヨさんのために新聞を取ってきてあげていたので日付には詳しかった。
病院でケア棟に行くようになってからも、入り口のカレンダーを何となくみていたので、
漠然とではあるが日付と曜日は頭に入っていた。
しかし、脱走計画について考え始めてからは気もそぞろで、
病棟の玄関でカレンダーを眺めるなんてこともなくなっていた。
「もし、今日がその12日だったら・・・・。」と思うと、モンちゃんは気が気じゃなかった。
「町内を一回りしてくる。」と言って立ち去ったテツは、今どこにいるのだろう。
ともかくもテツが走っていった方向へとモンちゃんは走り出した。

 1キロほど走ったところだろうか。小さな公園でゴミ箱をあさっている白い犬が居た。
「テ・・・・テツさんを知りませんか。」おずおずとモンちゃんが尋ねると
「テツなら、さっきここに来て、今夜の集会の話をしてったぜ。」
テツたちは集会なんかするのか。飼い犬には分からない、彼らだけの世界があるんだなぁ。
いや、感心している場合ではない。野犬狩りの話をしておかなくちゃ。
「お寺の掲示板に書いてあったんですが、野犬狩りがあるそうです。
とにかく見慣れない変なえさを食べないようご注意下さい。」
「はぁ?書いてあったって、どういうことだ。お前は字が読めるのか。」
「はい、そうなんです。事情はいずれお目にかかったらご説明致します。それでは!」
早口でそういうと、モンちゃんは再び走り出した。

 何匹かの野犬と出会い、そのたびに少し躊躇しつつも掲示板の話を伝えながら
テツを探し回っていると、突然見慣れた風景に出くわした。
「ここは・・・。ミヨさんの買い物に来てあげていた、あの商店街だ!」
初めのうちは首に袋をぶら下げて、後には買い物車でお使いに来ては、
お店の人たちにいろいろと可愛がって貰っていたあの商店街。
モンちゃんの脳裏にあの頃の懐かしい思い出が鮮やかによみがえった。

ー続くー


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