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ボクが選んだボクの人生~29 ボクはずっとここに居るよ~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 10年前に父さんと母さんが並んで立っていたベランダのすぐ横が
湘子の部屋の窓になっている。明かりはまだ消えていない。
熱を出して寝ている湘子の傍らで、父さんは心配そうに座っている。
じきに部屋に戻ってきた母さんが湘子の額に手を当て、
安心したように父さんと顔を見合わせて笑っている。

 ここからあの場所に戻ったら、ボクは湘子の潜在意識に格納される。
でも、それは愛する父さんや母さんとの別れではなく、
湘子が生きていてくれる限り永遠に続く「ボク」の人生なのだ。
もしも家族に困ったことが起きたら、箱の中から跳ね起きて全力で助けよう。
そして、ずっとずっと先にもう一度生まれ変わることがあったとしたら、
ボクはまた、父さんと母さんのような人を選ぼう。

 係官の部屋に戻ると、ジロウは何と居眠りをしていた。
こんな呑気なヤツにボクの人生は委ねられていたんだな、と思うと
思わず吹き出してしまった。彼もまた、愛すべき人なのかも知れない。
ボクは眠っているジロウを起こすことはせず、自分で「手続き終了」のボタンを押した。

 「ふわふわ」から地上に戻るボクの軌跡を、
たまたまベランダから眺めていたのは熱の下がった湘子だった。
「あ、流れ星!急いでお願いしなくっちゃ。
そうだ!お父さんとお母さんと、ずっと仲良く暮らせますように。」
ボクは湘子の頭をそっとなでながら、彼女の潜在意識にすべり込んだ。

                       ー完ー


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ボクが選んだボクの人生~28 父さんと母さんのこと~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 「ふわふわ」の上に着いて部屋に入ると、
係官のジロウは10年前のあの日と同じように口をもぐもぐと動かしていた。
「やあ、君。悪かったねぇ。説明してなかったみたいで。」
口で言うほど気にしてはいない様子の彼のデスクには、
あの時ボクが書いた書類が無造作に置かれている。
「報告書のことなんて聞いてなかったですよ。」と言いながら覗き込むと、
希望の性別に印をつける部分に、何やら食べこぼしのシミがあった。
「男」の方につけた印は汚れて見えなくなっていて、
ご丁寧にも「女」の方の欄にペンでチェックを入れたようなシミがついている。
なるほど、そうだったのか。彼ならありそうなことだ。
でも、文句は言わずにおいた。プラス思考は、母さん譲りだ。

 「とりあえず、君の両親の総合評価を書き込んでくれる?」
手渡された書類には、評価するための欄が設定されている。
ボクがここから見た時にプロ野球選手だった父さんは、
怪我で引退してしまって予想とはかなり違った暮らし向きになったし、
初めのうちは他の女性と結婚していた点もマイナス要因かも知れない。
でも。
予期せぬ怪我で引退を余儀なくされても前向きに生きてきた父さん。
最初の妻に浮気されていても、つべこべ言わず別れてあげた父さん。
そして何よりも、母さんを心から愛して大切にしてくれている父さん。
ボクは迷わず100点をつけた。

 次は母さんの番だ。
初めて見た時は「きれいな人だな」という印象だけだったけれど、
その美しさは決して外見だけではなかった。
オナカの中にいるボクが、うっかり恋をしてしまいそうになるほど
彼女は潔くて強くてあたたかい女性だったんだ。
正直に言うと母さんには満点では足らないくらいだから、
気持ちをこめて大きく力強い字で「100点」と書いておいた。

 書類を渡すと「手続きするんで、少し待っててくれる?」と係官が言う。
久しぶりに少しだけ、「ふわふわ」の上から下界を観察してみよう。
ボクは係官の部屋を出て、家族が見える場所まで急いだ。


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ボクが選んだボクの人生~27 誰かがボクを呼んでいる~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 遠くから誰かの声が聞こえる。あまり聞き慣れない男の声だ。
記憶の隅っこにうっすらと残っている気もするけれど、思い出せない。
しばらく耳を澄ますと、他にも声が聞こえてきた。
「湘子、大丈夫かい?」と心配そうな声は、父さん。
「リンゴ、摺りおろしてきたよ。」とおおらかな声は、母さん。
湘子がどうかしたのだろうか。ボクは一気に目が覚めた。
「ちょっと熱が高いなぁ。どうする?病院、行く?」
「朝まで様子見てからでいいよ。今はこうしていよう。きっと大丈夫よ。」
相変わらず落ち着いているのは母さんの方だ。

 しばらくすると、もう一度聞き慣れない声が聞こえ始める。
「聞こえないのかなぁ。担当係官のジロウなんだけど。」
担当係官・・・・・。ボクは記憶の引き出しを片っ端から開けて、
ちょっと太ったアイツの顔をどうにか思い出した。
ジロウ、と名乗られても困るのだ。名札だって見たことないし、
部屋のドアには担当区域の「D-F]とだけ書いてあったんだから。
「報告書を書きに来てもらう決まりになってるんだよね。
聞いてなかった?両親を決定してから10年後の報告ってヤツ。
説明し忘れたかも知れないね。ごめん。ま、そういうことなんで。」
もちろん、そんな話は聞いてない。それにどうやって行くんだ?
10年経ったっていうのも信じられない。両親を選んでから10年ってことは、
大雑把に考えて5年か6年もの間、ボクは箱の中で熟睡していたのか。
あれこれ考える暇もなく、ボクは湘子の潜在意識からするりと引き出され
満天の星空に吸い込まれていった。


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ボクが選んだボクの人生~26 何かが変わっていく~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 少し変だな、と思い始めたのは4歳の誕生日より少し前だった。
それまでは、上手い具合に共存出来ていた「湘子」としての意識と
「ふわふわ」の上から途切れることなく続いているボクの意識に、
微妙な変化が現れ始めたのだ。

 元気な女の子としての湘子を少し客観的に見ている、ボク。
小さなレストランを経営しながら、子育てもプラス思考で楽しんでいる
愛すべき父さんと母さんを幸せな気持ちで見ている、ボク。
その「ボク」としての意識が、少しずつ薄らいでいるような気がするのだ。
例えばお絵描きの時間に、無意識に花と人形の絵を描いていたり。
生まれる前のことをうっすらとしか思い出せなくなっていたり。
普通の女の子として暮らして行くには何ら支障はなく
父さん、母さんとの楽しい日々はこの上なく幸せなのだけれど、
湘子の中の「ボク」が遠からず消えてしまいそうでたまらなく不安だった。

 もしかして、これは運命のようなものなのだろうか。
生まれる前からの記憶が永遠に残っていたとしたら、人はどう生きるだろう。
様々な混乱を避けるために、人はみな時間の経過と共に
生まれる前の記憶が薄らいでいくようにプログラムされているのではないか。

 それから1ヶ月。日に日に薄らいでいた「ボク」の意識は遠のき、
湘子の潜在意識の「箱」の中で深い眠りについた。


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ボクが選んだボクの人生~25 それなりに順調だった~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 翌日。ボクを囲んで、二人は何やら嬉しそうに話をしている。
名付け方のヒント、みたいな本を見ながら名前を考えてくれているらしく、
「リン」とか「サクラ」などと次々に候補をあげているのだが、
名字とつなげて考えるという作業を怠っているのがどうにも気がかりだ。
「ハラリン」や「ハラサクラ」だと、ボクは少々落ち着かないんだけど。
ああでもない、こうでもないとしばらく迷ったあげく、
二人が選んだのは彼の母校の名称から一字をとった「ショウコ」という名だった。
「ハラ」という名字とつなげるとどうなるかについて、二人は考えなかったのだろうか。
「ハラショー」というあだ名の、男勝りな女の子。
ボクは自分の将来がくっきりと見えてきた気がした。
(後にこの名前は「「湘子」と書くのだと知った。原湘子。字面はクールで、悪くない。)

 それから数年。服や靴の色に若干の違和感を覚えたりすることはあったが、
ボクは女の子としてそれなりに順応しながら生きていた。
そもそも昔と違って、言葉遣いだって男女間に大きな格差はない。
幼稚園の庭にあるジャングルジムや滑り台で派手に遊び、
テレビ番組においてはヒーローものをこよなく愛していた。
「おい、ハラショー。帰ったら公園で遊ぼうな!」ボクを誘うのはたいてい男の子。
すべてが順調、だった。ボクの中の、ある変化をのぞいては。


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ボクが選んだボクの人生~24 新しい世界だ~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 何度も体をねじり、気を失いそうになりながらも前へ進む。
ここさえ乗り越えればどんな辛いことにも耐えられるだろうと感じながら、
手足を出来るだけ折りたたみ、可能な限り小さくなって光を目指した。
彼女の「いきむ」力とボクの進もうとする意志とがぴったり合わさった瞬間、
突如として世界が変わった。出られたんだ、新しい世界に。
「がんばったね。」「えらかったね。」皆口々に彼女ばかりを誉めるけれど、
ボクだってすごく頑張ったんだ。「よく生まれてきたね。」と誰か言ってくれ。
内心、不満たらたらのボクを誰かが抱いて、お湯で洗ってくれている。
今までずっと狭いところで我慢していたので、とても気持ちがいい。
やがてタオルに包まれ、ボクは父である彼のところに連れて行かれた。

 「元気な女の子ですよ」と助産師さんらしき人の声。
そうだ。ボクは女の子だったんだ。すっかり忘れていた。
分かってはいたことだけど、頭の切り替えには多少時間がかかった。
横たわる彼女の傍らにボクをそっと置きながら、「よく頑張ったね。」と彼が言う。
ボクのことも誉めてくれ!心音が下がっても気を失いそうになっても頑張ったのに。
でも、彼女はボクのほっぺたにやさしく触れながらこう言ったんだ。
「頑張ってくれてありがとう。よく生まれてきてくれたね。」って。
今までの苦労がすべて報われた気がした。生まれてきて、本当によかった。
ありがとう母さん。ボクは命がけで母さんを幸せにするよ。
女の子としてのボクの人生が、今動き出した。


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ボクが選んだボクの人生~23 そう、あと少し!~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 病院に入り受付を済ませた彼女は、初産とは思えないほど落ち着いている。
まだ痛みがさほどでもないのだろう。待合室で雑誌を読んだりしているみたいだ。
ボクはこんなに息苦しいのに、何て呑気なんだと思うと少し悔しくて、
彼女の肋骨のあたりをかかとでグイッと力任せに押しあげた。
その時彼女が「あっ・・・・。」と小さく叫んだ。
「破水・・・?」そうつぶやいて立ち上がると、誰かを呼び止めて話をしている。
看護婦さんらしきその人に案内され、彼女が診察を受けている間にも、
オナカの環境は急速に悪化してきて、ボクは気を失いかけていた。

 どれくらい経ったのだろう。ボクが次に目を覚ました時に聞こえてきたのは、
「あと少しだからね。がんばれ!」という彼の声だった。
息苦しくてならないボクは、とにかく外に出たい一心でもがいてみた。
すると、いよいよ苦しくなって再び気が遠くなりそうになる。
「心音が下がってるんですよね・・・。」という聞き慣れない声。
主治医の先生だろうか。それに続いて「そうなんですよね・・・。」という
彼の意外に落ち着いた声。おい、もっと慌てろ!とボクは叫びたくなった。
さらにもがきながら一回転すると、突然息苦しさが嘘のように消えた。
どうも、何か首に巻き付いていたらしい。これで生き延びたぞ!
俄然やる気の出たボクは、産道に向かって突き進む。
今まで見たことのない明るい光が目の前に見えてきた。
かなり狭い道のりだが、さっきまでの息苦しさを思えば何てことはない。
彼女も苦しそうにあえいだり叫んだりしている。とても辛そうだ。
あと少しだよ。ボクは頑張って、ボク自身の力でここから脱出するからね。


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ボクが選んだボクの人生~22 いよいよ、かな?~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 出産の準備をしながら過ごす彼女の鼻歌のレパートリーに、
クリスマスソングがずいぶんと増えてきた。きっと、もう12月に入っているのだろう。
FMから流れる曲もビートルズのChristmas Time Is Here Againだったりする。
音楽に耳を傾けながら、ボクも心地よく・・・・と言いたいところだが、
オナカの中は窮屈きわまりなくなってきて、とても音楽どころではなかった。
数日前までは「出してくれ!」の意味合いを込めてオナカを蹴ったりしていたが、
ここ2,3日はそんな元気さえもなくなってきていた。

 ある朝のこと。彼女はベランダで楽しそうに洗濯物を干していた。
いつもならボクもつられて楽しくなるところなのだが、
あまりの窮屈さに息を止めてじっと耐えていた。
しばらくすると、彼女が手を止めて座り込んでしまった。
「何か、ちょっと変・・。」とつぶやきながら、オナカをさすっているようである。
いよいよ来たのだろうか。ボクがこの世に生まれ出る、運命の時が。
痛みが少し治まったのを見計らって、落ち着いて彼に連絡している彼女を、
ボクはあらためて頼もしいと感じた。
でも、あんまりゆっくりしている時間はないと思うよ。慌てず急いで病院へ!


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ボクが選んだボクの人生~21 それはボクも気づかなかったよ~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 彼の腕の中で泣きじゃくっていた彼女が、
突然泣きやんだかと思うと、今度ははじけるように笑い始めた。
「どうしたんだよ、マキ。そんなに嬉しいのか?
子どもみたいに泣いたり笑ったり、忙しいヤツだなぁ。」
ボクも同感だ。彼女は潔くて凛として、それは素敵な女性だけれど
子どものまま大きくなったようなところがあるのだ。
まあ、そこが彼女の魅力的な部分でもあるのだけれど。
「あのね、コースケ。今まで一度も考えたことなかったんだけどね。」
「何を?」
「私のね、名前。オータガワラ・マキ。長すぎて、説明が大変で、
ちっちゃい頃からイヤだなぁ、って思っていてね。
結婚するなら短くて分かりやすい名字の人がいいなぁ、って、高校生の頃までずっと思っていたの。
でも、貴方と結婚出来るなんて思ったことなかったから、
今初めて気づいたの。私、ハラ・マキになっちゃうんだって。」
「ほんとだ!ハラマキ!ほんとだね!僕も気づかなかった。」
「ね、おかしいでしょう?笑っちゃうでしょう。」
「あ、もしイヤだったら夫婦別姓でもいいんだよ。」
「ううん、私、ハラマキがいい。病院の受付なんかでね、
ハラさーん、ハラマキさーん、って呼び出されてたらちょっと楽しいじゃない。」
いいなぁ、プラス思考で。そういうトコ、ボクは好きだな。
一日も早く生まれ出てマキとコースケに会いたいと、ボクは心の底から願うようになった。


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ボクが選んだボクの人生~20 幸せな時間~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 臨月に近づいているのだろうか。
この前まである程度動き回れていたのに、最近やけに窮屈になってきた。
向きを変えるのに一苦労していると、時折彼女がくすぐったそうに笑う。
彼女が聴いている音楽に合わせてボクが肋骨のあたりを「トントン」と叩くと、
「お、曲のテンポに合ってたよ。天才かも。」と喜んだりする。
少々不自由だけれど、穏やかな幸せに包まれた時間だった。

 そんなある日、久しぶりに彼がこのマンションにやってきた。
怪我の回復は順調で、日常の暮らしにはもう特に支障はないらしい。
「アイツが浮気をしてたのはどうも本当らしいんだけどね。
自分のことを考えれば五分五分だし、もういいかな、って思って。」
彼は妻の言い分を受け入れ、離婚に応じることにしたようだ。
「新しい仕事もまだ未定だし、慰謝料や養育費のことを考えると
不安材料は尽きないんだけど、それでもよければ・・・。」
彼のために何か飲み物を用意しようとしていた彼女の手が止まったようにボクには感じられた。
「それでもよければ、僕と結婚してもらえないだろうか。」
つわりの時期を過ぎてからは、少々辛いことがあっても泣かなかった明るくて気丈な彼女。
でもそれは本当に「平気」だったわけじゃなくて、
必死で頑張って「平気」だと自分に思いこませていたんだろう。
その証拠にほら、彼の言葉を聞いた瞬間に子どものように泣きじゃくっている。
彼がいとおしそうに彼女を抱きしめているのが分かったボクは、
負けじとオナカの中から彼女をそっと抱きしめた。


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