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天才モンちゃん今日も行く(第七話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 散りゆく桜の下で行く春を惜しみ、砂浜を散歩して夏を味わう。
金木犀の香りを楽しんで秋を見送り、肩を寄せ合って冬を過ごす。
ミヨさんとモンちゃんのそれから数年はいたって平穏に過ぎていった。

 季節の変わり目になると膝の痛むミヨさんの代わりに、
モンちゃんがお財布と買い物袋を首に下げてお使いに行くこともあったが、
首にかけた袋ではせいぜいお豆腐と人参くらいしか持てない。
どうしたものかと考えたミヨさんは、器用にも革ひもでハーネスのような胴輪をこしらえ、
古いベビーカーで犬ぞりもどきの「モンちゃん買い物車」を作ったのだった。
かごの横に「買い物メモ」を吊し、お財布はモンちゃんの首にかける。
当のモンちゃんは嫌がる気配もなく、むしろ喜んで革ひもを着けてもらった。
それでなくとも「おばあちゃん孝行」で人気者だったモンちゃんは
「買い物車のモンちゃん」と呼ばれてさらに有名になり、
「ほらよ、これも持っていきな。ご褒美だ。」と投げ込まれる鶏のささみやポークハムは
モンちゃんの夕飯の一品に加えられるのであった。

 ある秋の夕暮れ、ミヨさんに頼まれた鯖の切り身と茄子とおからをかごに入れ、
モンちゃんは意気揚々と家路を急いでいた。
「公園内、犬の散歩禁止」と書かれた立て札を見ても、
「僕は散歩をしているのではない。ミヨさんのために買い物に行った帰りだ」と
誇らしげに胸を張り、夕焼けに向かってずんずん進んだ。
ミヨさんの家に着き、裏木戸に吊された空き缶を前足で揺らして音を鳴らす。
僕だよ、帰ってきたよ、の合図である。
でも、何故だろう。何度鳴らしても、ミヨさんの返事がなかった。
モンちゃんの薄茶色の胸は、今までになくざわざわと騒ぎ始めた。

ー続くー


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降龍十八章

『ずんずん』という表現が雰囲気が出て、いいですね。
『おから』は子供のころよく、家ででました。ご飯にかけるとおいしいですね。
最近は全然、食べてないけど。はっきり言って、他の家で食べるとおいしくないんです。
ネコの前足は手とも言いますが、犬の場合は前足としか言いようがないですね。犬をだっこすると、前足を突っ張るそうですね。(脚が地に付いてないと不安なんだそうです)・・・動物嫌いの私です。
by 降龍十八章 (2005-10-27 08:52) 

樹

こんにちは。樹です。
【おから】私も好きです・・・あれを食べるとうちのミヨばあちゃんの味を思い出します。

モンちゃんのザワザワ・・・凄く気になりますーー。


そして・・・負けちゃいましたね・・・虎・・・・。あおぉぉぉん
by (2005-10-27 09:35) 

はなぽん

降龍さん、おはようございます。
そうなんですか、動物、苦手ですかー。
私は大好きなんだけれど、犬や猫が飼えないマンションなので
小鳥と金魚を飼っています。
おからはたしかに家庭の味で、外で食べると美味しくないですね。
というものの、我が家では久しく食卓にのぼっていません。
作ってみようかな。

樹さん、おはようございます。阪神の悪夢の負けで、
ホントなら立ち直れない私ですが、
文章を書くことで救われています。
樹さんも同じ気持ちかな。あおぉぉーーん・・・・。
by はなぽん (2005-10-27 09:43) 

新たな展開の始まりですね。
どうなるのか気になります。
by (2005-10-27 15:39) 

はなぽん

秋見さん、いつもありがとうございます。
後半に入ってきて、平和なばかりでもいけないので・・・。
病気とか事件などはどうも苦手で、
上手く書けません。難しい・・・。
by はなぽん (2005-10-27 16:30) 

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