天才モンちゃん今日も行く（第十八話） [小説「天才モンちゃん今日も行く」]
こんなに悲しいのに、どうして変わることなく桜は咲いているのだろう。
どうして、空はこんなに青くて澄み切っているのだろう。
川橋先生が病室に戻ってしまって独りぼっちになったモンちゃんに、
事情を知らない患者さんが「可愛いねぇ。」と話しかけてなでて行く。
でも、今は少しも嬉しくないんだ。誰が話しかけてくれたって、
チョウチョが僕の鼻をくすぐって飛んでいったって、僕は何も感じないんだ。
うずくまって眠ったふりをするしかないモンちゃんを癒してくれるのは、
茶色い背中をやさしく包んでくれる春の日差しだけだった。
病院での様々な手続きを済ませて、冴子さんがモンちゃんを迎えに来てくれた。
「モンちゃん、ごめんね。いっしょに帰ろうね。」
背筋を伸ばして悲しみに立ち向かっている冴子さんだが、
歩きながら顔を見上げるとその目は真っ赤に泣きはらしていた。
誰よりも辛い時に人一倍頑張らなくちゃならないなんて、人間は何て大変なんだ。
そんな冴子さんに出来るだけ迷惑をかけず、少しでも力になりたいとモンちゃんは思うのだった。
弔問に訪れる人が途切れるまでは、モンちゃんは庭の金木犀の木につながれていた。
犬を苦手な人もいるだろうという、冴子さんの配慮からである。
夜９時を回り訪れる人もいなくなった頃、モンちゃんはやっと部屋に入ることが出来た。
ミヨさんの棺のそばには、ミニカーを手にした功太君が座って無邪気に遊んでいる。
モンちゃんはゆっくりと近づき、横たわっているミヨさんの顔をそっと見た。
きれいな花に囲まれ、少し微笑んだその顔を見ていると
「モンちゃん、お散歩に行こうか。」と今にも言ってくれそうだった。
ミヨさんがよく着ていた小豆色のカーディガンの横に、
冴子さんが入れてくれたモンちゃんの写真が添えられている。
「いつでもそばに居るからね。」というミヨさんのやさしい声が聞こえてきそうだ。
「モンちゃん、明日、お庭で遊ぼうね。」と嬉しそうに言う功太君の可愛いほっぺたに
「いいよ。明日遊んであげる。」の気持ちをこめて、モンちゃんは頬ずりをした。
ー続くー
ミヨさん、さようなら。
南無阿弥陀仏。
by 降龍十八章 (2005-11-07 07:55)
悲しい別れですね。
なにしろ、モンちゃんはミヨさんのために
ずっとがんばってきましたからね。
モンちゃんは、生きがいを見つけられるのだろうか。
続きが気になります。
by (2005-11-07 10:17)
降龍さん 秋見さんへ
降龍さん、おはようございます。
ミヨさんとの別れは、私にとっても衝撃で・・・。
自分で書いているのに矛盾だらけですが、
どうして死んでしまったの・・・という気持ちです。
ダメですねぇ。気分の切り替えがヘタで。
秋見さん、おはようございます。
自分の祖父母との別れや、義弟との別れを思い出して
たまりませんでした。
これからはモンちゃんの新しい生き方を見つける日々です。
私も落ち込まないで頑張ります。
by はなぽん (2005-11-07 10:41)
大切な人との別れというのはその時はもちろん、後からの悲しみも更に大きかったりするもの。自分が日常を生きなきゃいけないと尚。
冴子さんがミヨさんのそばにモンちゃんの写真を入れてくれたことで、モンちゃんが、自分はミヨさんとずっと一緒にいる、と思ってこれからの生きていく励みになったらいいな。なんて思いました。
by さらら (2005-11-07 12:56)
さららさん、こんにちは。
私が描きたかったのはまさにそのことです。
辛くても、日常を生きなければならない残された人のこと。
モンちゃんはミヨさんとの思い出を支えにしながら
悲しみを乗り越えて強く生きていかなければなりません。
そこを上手く書けたらとっても嬉しいです。
by はなぽん (2005-11-07 17:39)
はじめまして。いつも楽しみに読ませていただいてます。
話の筋とはまったく無関係ですが亡き祖母と同じ名前なので、
つい祖母のお通夜の日のことなんか思い出してしまいます。
先を楽しみにしてます。
by 小島澪 (2005-11-07 21:53)
小島澪さん、初めまして！
おばあちゃまのお名前もミヨさんでいらしたんですね。
悲しいことを思い出させてごめんなさい。
私自身の祖父母の時のことを思い出しながら書いたんですよ。
もうずいぶん昔の話ですが・・・・。
いつも読んで下さってるんですね。ありがとうございます。
これを機会に宜しくお願いします(^^)
by はなぽん (2005-11-07 22:49)