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天才モンちゃん今日も行く(第十九話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 翌日の葬儀の間は、モンちゃんは功太君と川橋先生といっしょに居た。
モンシロチョウがひらひらと舞って菜の花にとまるのを眺めたり、
空を行く雲が何となく象の群れに似ているね、と話をしたり。
出来るだけ悲しいことを考えないで居たい先生とモンちゃんは、
傍らで無邪気に笑う功太君のおかげでずいぶんと救われていた。
「僕、ちょうどお休みでラッキーだったよ。モンちゃんと功太君と遊べて。」
やさしく笑いながらいう川橋先生の横顔を見上げると、
男の人の割に長い先生のまつ毛が涙で濡れていた。

 冴子さんのご主人は家業の造り酒屋の仕事のためにすぐ帰らないとならなかったが、
功太君と冴子さんはしばらくミヨさんの家に泊まることになった。
去年の秋、功太君がまだ帰りたくないと駄々をこねた時に
「またおいでね。」とやさしく言ったミヨさんのことを、冴子さんは思い出していた。
モンちゃんもまた、あの時のミヨさんのやさしい笑顔を思い出しながら、
この家にミヨさんの居ない悲しさに押しつぶされそうになっていた。
そんなモンちゃんの気持ちを察して、冴子さんはお布団を並べて
みんなでいっしょに眠れるように整えてくれた。

このところの疲れから、冴子さんも功太君も寝付きは早かった。
モンちゃんは二人の寝息を穏やかな気持ちで聞きながら、
ミヨさんとお布団で話したいろいろなことを思い出していた。
すると突然、中庭で聞いた時と同じように、ミヨさんの声が聞こえてきた。
「モンちゃん、寂しい思いをさせてごめんね。姿は見えないかも知れないけれど、
私はずっとモンちゃんのそばにいるから心配しないでね。
いつまでも悲しんでいないで、元気なモンちゃんに戻って頂戴。お願いね、モンちゃん。」
それはどう考えても夢ではなかった。モンちゃんは背筋をしゃんと伸ばして、
大好きなミヨさんの言うことを一言も聞き逃さぬように大切に聞いていた。

翌朝。朝食の支度をしていた冴子さんが振り返ると、
朝刊を口にくわえてシッポをふりながらやってくる、元気なモンちゃんがそこに居た。
その気配に起き出した功太君が「モンちゃん、新聞おいしい?」と真剣な顔で聞くので、
思わず冴子さんも吹き出して笑ってしまった。
こうやって、何気ないことでふと笑ったりしているうちに、きっと本当に元気になれる日が来る。
冴子さんは、モンちゃんと功太君の嬉しそうな様子を眺めながらそう思っていた。

ー続くー


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降龍十八章

ミヨさんのお化けが、今後、どう活躍するのか?楽しみです。
by 降龍十八章 (2005-11-08 10:55) 

はなぽん

降龍さんこんにちは。
そうですねぇ。私としては、ミヨさんは死んでしまったけれど
魂は本当にモンちゃんのそばにいると思っています。
それは「お化け」と言えば言えるかも知れないけれど、
例えば、2歳くらいの小さい子は死んだおばあちゃんが見える、とか
そういう話、ありますよね。
そんな感じで、モンちゃんには人間に分からない何かが分かる、
とでもいうような。
まあ、そんなところです。とにかくモンちゃんのそばにいて、
これからも励ましたり元気づけたりしてくれる、はず。

モンちゃん、あと少しで終わらせる予定なのですが、
もうちょっとふくらませて続けるか?って思っちゃったり。
人間って欲が深いですねー。
by はなぽん (2005-11-08 14:29) 

「新聞おいしい?」と真剣に聞く功太君にやられました。
子どもらしい視点の、ほほえましい光景にnice!です。(^_^)
なんだか、読んでいる私まで救われた思いがします。
モンちゃん、元気になれそうですね。よかった。(^_^)
by (2005-11-08 21:53) 

はなぽん

秋見さん、私こそ救われた思いです。
実は毎日不安で不安で・・・・。
本当にこれでいいのだろうか、と自問自答です。
「新聞おいしい?」のところはずいぶん考えて
やっと書けたところなので誉めて下さって嬉しいです。
by はなぽん (2005-11-08 22:05) 

降龍十八章

もっと長く続けてほしいです。なんたって
今日もいく!ですからね。
by 降龍十八章 (2005-11-09 10:36) 

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