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天才モンちゃん今日も行く(第二十一話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 先生といっしょに病院に着いて久しぶりに見た中庭は、
桜の花びらが敷き詰められていて絵のように美しかった。
何人かの患者さんが「おお!」と声を上げて駆け寄って、モンちゃんをなでたり
「しばらく見なかったけど、元気だったかね?」と話しかけたり。
みなそれぞれに、モンちゃんが再びこの病院に来たことを喜んでくれていた。
病室の窓の向こうにミヨさんが居ないことをのぞけば、以前と変わらない穏やかな情景であった。

そんなある日。先生がモンちゃんを連れて行ったのは
ミヨさんが居た病棟に並んで建っている「ケア棟」と書かれた建物だった。
「モンちゃん、ここにはね、外に出られる人もいるんだけど、
自分の部屋から出られない人やベッドから起きられない人も居るんだ。
みんな、モンちゃんの話を聞いて会いたがっているから来てくれる?。」
先生はいつも、モンちゃんにちゃんと分かるように丁寧に話をしてくれる。
それはモンちゃんにとって本当に有り難いことだった。
それからは、数日に一度の割合で先生と一緒にケア棟に行くことがモンちゃんの仕事となり、
そこに居る人たちの顔は日増しに明るくなっていくのであった。

 ある日、モンちゃんがケア棟の廊下を歩いていると、
介護スタッフの女性がきょろきょろと辺りを見回しながら
「山口さんったら、どこにサンダル脱ぎっぱなしにしちゃったんだろう。」とつぶやいて
モンちゃんのすぐ横を通っていった。
これは、僕の出番だ、と直感したモンちゃんは両耳をピッと立てて、玄関から駆けだした。
いくつかある出入り口の場所は、先生に連れられて何度か見ているのでしっかり覚えていた。
一カ所ずつ回って「山口」と書かれたサンダルがないかどうか丁寧に見ていくと、
裏庭に通じる出口でついに見つけることが出来た。
いくら器用なモンちゃんでもさすがに両方は口にくわえられないので、
先ずは片方くわえてスタッフの女性の元に持っていくと
「まあ、何てこと!どうしてこれが山口さんのだと分かったの?」と目を丸くして驚かれた。
「わん!」と得意げに一声吠えてさらに片方を取りに走り、意気揚々と戻ってくると、
話を聞いて集まった何人かのスタッフの人たちがみんなで
「すごい!モンちゃんって賢いね!」と口々に誉め、拍手までしてくれている。
それからは何かにつけて「ねえ、モンちゃんお願い。」と大声で呼ばれては、
スリッパやタオルなどの探し物をを頼まれることが増えた。
時には「山口」「森川」のようにモンちゃんの読める名字ばかりではなく
「倉掛」「詫間」など、難しくて読めない名字の人の時もあって、
「今日はどうしたの?モンちゃん、探してきてくれないの?」と言われて
半日ばかり落ち込んだりすることもあったが、
人の役に立つ嬉しさでモンちゃんは日増しに元気になっていくのだった。

ー続くー


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コメント 7

さらら

モンちゃんに新しい生きがいが見つかってよかった。
誇らしげな姿が目に浮かびます。
by さらら (2005-11-10 07:51) 

降龍十八章

患者さんはモンちゃんが、匂いでなく、字で探しているということになかなか気づかないんですね。
by 降龍十八章 (2005-11-10 12:35) 

はなぽん

さららさん☆降龍さん

☆さららさん、ありがとうございます。
誇らしげなモンちゃん、背筋がシャンとして素敵でしょ?
現実に私のそばにいるような錯覚に陥り、大変です。 
誰か柴犬を飼ってもいいと言ってくれ・・・。

☆降龍さん、こんにちは!
そうなんですよ。字を読んでいるって気づいてもらいたいんです。
誰か何とかして・・・。いや、私がどうにかするしかないんですよね。
考えてみまーす♪
by はなぽん (2005-11-10 13:00) 

難しい漢字が読めないって
愛嬌があっていいですね。(^_^)
モンちゃんに、活躍の場ができてよかった。
by (2005-11-10 17:43) 

はなぽん

秋見さんこんばんは。
難しい名字の例が少々難しかったです。
あまりに難解な名字だと「入院患者の中に居そうにもない」と
思われるだろうし・・・。簡単だと読めちゃうし。
阪神ファンなので「源五郎丸」「御子柴」なども考えたんですよ。
ああ・・・それにしても眠いです。子ども並みですね。まだ11時にならないのに。
by はなぽん (2005-11-10 22:38) 

時売り −ある時間商人の話−

早寝早起きは大変いいと思います。
見習わないといけませんね。
モンちゃんを長く続けるか、予定通りの長さで終わるか、
大変気になりますが、「後悔しないように」選択されることを祈ってます。
終わると淋しいですが、また続編開始みたいなこともできますし。
by 時売り −ある時間商人の話− (2005-11-11 00:31) 

はなぽん

☆トキタさん、ありがとうございます。
「後悔しないように」というアドバイスと続編開始、というアイディア、
本当に嬉しいです。迷いが吹っ切れた気がします。
やはり最初に考えたあらすじの流れを大事にして
終わりに向かっていくのが一番いいように思えてきました。
といいながら、予定の長さはすでに超えてしまっているのですが・・。
引き延ばさず、はしょらず、自然な形で行けたら、と思います。
ありがとう!
by はなぽん (2005-11-11 07:58) 

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