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見えないピアノ 5 [見えないピアノ(自叙伝、のような)]

 初めのうちは主旋律と左手の伴奏だけのシンプルだった
私の中の「見えないピアノ」の音の構成は、次第に厚みを増してきた。
主旋律とベース音とハーモニー、ざっと合わせると6から8トラックほどであろうか。
続けるうちに、初めて聴いた曲でも何となくアウトラインが掴めるようになってきた。
この頃にはもう、実際にピアノが目の前にあるかどうかは
さして重要なことではないような気がしていた。
生活は楽でなかったにもかかわらず大学に進ませてもらった私は、
奨学金とアルバイトでやりくりしながら学生寮で暮らしていた。
そんなある日、高校の先輩が「バンドのキーボードをやらないか」と声をかけてくれた。
オリジナルではなく既成のバンドのコピーだったので、
カセットに録音された原曲を繰り返し聴いては、頭の中で練習してスタジオに向かった。
一年も続かなかったし発表の場もなかったが、それでもじゅうぶん楽しかった。
よく分かりもしないのにジャズ喫茶などに足を踏み入れたのもその頃だ。
そこで聴いたジャズオルガンの音に、私は釘付けになった。
日本で作られている電子オルガンとは違う、大人っぽい音。
知識が乏しく楽器の名前は分からなかったが、音だけはしっかりと胸に刻まれた。

就職して最初のお給料を手に、私は楽器店に向かった。
どうしてもあの時聴いた音が忘れられず、何とかしてあの楽器を欲しいと思ったのだ。
お店の人に「音を聴かせて下さい」とお願いしていくつかの楽器店を廻ったが見つからない。
諦めかけながら入ったお店でやっと巡り会った。楽器の名前は、ハモンドオルガンであった。
迷うことなく分割払いで買うことを決め、数日後にはアパートの部屋にオルガンが届いた。
子どもの頃自分の部屋にあった大切なピアノと電子オルガンを失ってから、
ちょうど十年の月日が流れていた。

ー続くー


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 音だけで、探しだすなんてすごい。よっぽど印象深い音だったのでしょうね。それに、十年間も思い続けるられるものがあるっていいですね。
by (2005-12-15 23:23) 

Chip

そんなに心に留めておける”音”なんて、音感の鈍い私には想像できない。素直に凄いと思うし、それだけピアノやオルガンに対する愛着があったのでしょうか。秋見さんのコメントにもあるとおり、継続して思い続けられる事があるのって良いなと思うし、継続って凄い力を発揮するんだなと感じました。
by Chip (2005-12-16 10:33) 

はなぽん

秋見さん☆Chipさんへ

☆秋見さん、こんにちは!
「太陽に吠えろ」を見ておられた世代の方ならば、
あのドラマの中で使われていた音楽の音だといえば
分かっていただけるかも知れません。
いわゆる「エレクトーン」のような、いかにも電子、という音ではなく、
電子オルガンなのにアコースティックな音なんです。
お聞かせしたいなぁ・・・。ネット上で探しましたが
音を聴けるサイトが見つかりません。残念!

Chipさん、こんにちは!
ホントにいい音なんです。今、クリスマスソングが街に流れていますよね。
いわゆるダサダサのやつじゃなくて、アメリカっぽいアレンジのヤツだと
ハモンドの音が使われてたりするんです。
いつか探し出せたら音をお聴かせ出来るサイトをご紹介しますね。
by はなぽん (2005-12-16 14:15) 

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