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ボクが選んだボクの人生~9 急がなきゃ~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 薄暗い部屋の中を覗くと、まだ彼女はソファーに腰掛けていた。
さっきは泣いているものとばかり思っていたが、
よく見ると彼女は青ざめた顔でうつむいていて、
何か布のようなものを顔に押し当てていたかと思うと
突然立ち上がり、少しふらつきながら奥のドアの方へ走り寄る。
どう見ても様子がおかしい。何かあったのだろうか。
しばらくして、布を口にあてたまま部屋に戻ってきた彼女は、
ものの1分もしないうちにまた立ち上がってドアの方に走る。

 鈍感なボクも、さすがに思い当たった。大変だ。非常事態だ。
彼女のオナカには、赤ちゃんがいるに違いない。
ボクは急いで係官の部屋に行き、下界に降りる許可を取りつけた。
母親が自分の妊娠に気づいて48時間以内に
パスワードを使って母体に潜入しなければ、
ボクは今回の「生まれる権利」を失効するのだ。
さあ、行くぞ。下界に降りて、行動開始だ。


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ボクが選んだボクの人生~8 何てひどいヤツなんだ~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 ともかく、自宅に帰るであろう彼の車を見失わないようにしなくちゃ。
ボクは再び、まばたきもせず目を見開いて彼の行方を追った。
20分ほど走っただろうか。小高い丘に連なる新興住宅地の中でも
ひときわ目をひく大きな2階建ての家。
車の音に気づいたのか、彼の妻らしき人が玄関を開けて待っていた。
ついさっきまで海沿いのマンションで彼女といたことなんて、
もちろん彼の妻は知る由もない。
愛人である彼女より多少器量は劣るけれど、育ちの良さそうな女性である。
こんな可愛い奥さんがいるのに、目と鼻の先に愛人を囲っているなんて。
選んだばかりの自分の父親に、ボクはすでに失望し始めていた。
でも、後戻りは出来ないのだ。自分で選んだことだ。
彼女はどうしているだろう。まだ泣いているだろうか。
将来の母である彼女のことが気になって、様子を見に戻ることにした。


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ボクが選んだボクの人生~7 あれ?どうしたんだろう~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 係官の部屋を出て自分の場所に戻ったボクは、
将来の両親のマンションをあらためて眺めた。
ベランダに並んでいたはずの二人の姿はすでになく、
照明を落とした部屋の中に彼女だけが座っていた。
気のせいだろうか。彼女の肩が小さく震えている。
漠然とした不安がボクの胸をよぎった。

 駐車場に目をやると、彼の車が急発進で出て行くところだった。
冷静に考えてみれば二人が愛人関係にある以上、
本宅へ帰っていく、ということは充分予想出来ることではある。
彼女が寂しさのあまり涙し、肩を震わせる、ということも。
気にしない方がいいのだろうか。
まだ生まれてもいない子どものボクが考えても仕方ないかも知れない。

 でも。漠然とした不安の種は、
次第に大きな塊となってボクにのしかかってきた。


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ボクが選んだボクの人生~6 そうだったのか~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 決定すると、担当係官の元に出向くことになっている。
ボクの担当は少し太った男の人で、書類を書いている最中もずっともぐもぐと口を動かしていた。
「ん?ほぅ、プロ野球選手か。年俸は・・・。ふむ。悪くないな。君、いいところに目をつけたね。
で、女性の方はというと・・・・。あれ?いいの?君。」
「何がですか?どこか不備がありますか?」
「いやね、君がそれでいいならいいんだけどね。
この人たち、夫婦じゃないよ。いわゆる愛人関係。」
ボクの背中を、冷たいイヤな汗がひとすじ走った。
愛人関係。そうだったのか。試合が終わった後、
彼は車を走らせて愛人である彼女のマンションに行ったわけだ。
「いいの・・って言われても、やり直しは出来ないんでしょう?」
「あ、まあそうなんだけどね。一応聞いてみようかな、ってね。」
リセットは出来ない。最初から分かっていたことだ。こうなったら、腹をくくるしかない。
なーに、愛人関係だって、かまうものか。
彼はプロ野球選手。お金なら有り余るほどあるのだし、
あんなにキレイな人だ。何かの拍子に本妻に収まるかも知れない。
気持ちの切り替えの早いボクは、
ワケありだけどお金には不自由しない将来の自分について考えながら、
ちょっと太めの担当官に挨拶をして部屋を出た。


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ボクが選んだボクの人生~5 決めたよ~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 よく映画や何かで見かけるワンシーンさながらに、
彼がグラスを片手にベランダに現れたのは、それから10分ぐらい経った頃だろうか。
満ち足りた笑顔で夜空を見上げる彼の傍らには、整った顔の女性が立っている。

 この人が彼の奥さんなのだろう。ずいぶんとキレイな人だ。
部屋の方を気にする素振りも見せず、二人してゆったりとグラスを傾けている様子から見て
おそらくまだ二人の間に子どもはいないのだろう。
サヨナラ3ランを放ったプロ野球選手と、モデルのような美人。
申し分ないだろう。迷う理由なんか、あるはずもない。
12時までには決めないとならないのだから、ここは迷わずビシッといかなくちゃ。
ボクは決定ボタンを押した。リセットのきかない、一度きりのボタンを。


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ボクが選んだボクの人生~4 ここか!ここなんだね~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 車が地味なわりには、彼の運転は豪快だった。
まばたきもせず目を見開いていたのに、何度か見失いかけたほどだった。
大きな通りから、海沿いの道に入ってしばらくすると
彼の車は高層マンションの駐車場に入っていった。
そうか。ここが彼の家なのか。
やがて自分の住まいになるであろうこの場所を、ボクは「ふわふわ」の上から感慨深く眺めていた。
エレベーターの中はボクの居る場所からは確認出来ないが
全室オーシャンビューのマンションのこと、
そのうちベランダの方から彼を見つけることが出来るに違いない。
ボクはさっき出来なかった分まで充分まばたきをしながら、彼が姿を見せるのを待っていた。


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ボクが選んだボクの人生~3 追いかけろ~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 ナインの手荒い祝福を受け、お立ち台に上がった彼。
ボクの居る「ふわふわ」からは声を聞くことは出来ないけれど、
ファンの歓声に応える彼の顔は輝いていた。
特に舞い上がっている風ではないところをみると、実績のない選手ではなさそうだ。
やっぱり、この人にしよう。ボクはそう決めて、しばらく彼の動きを追うことにした。

 ベンチ裏に引き上げて数十分。やっと彼の姿が見えた。
野球選手にはしては地味な車に乗り込む後ろ姿は、
疲れを見せてはいるものの達成感に満ちている。
いわゆる「出待ち」をしていたファンの声援に応えながら、車は球場を出て行った。
追いかけなくちゃ。ここからが勝負のしどころだ。まばたきしてる場合じゃないぞ。目を見張れ!


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ボクが選んだボクの人生~2 この人でいい?~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 あっという間に、日暮れ。若干の焦りを感じながら下界を見下ろすと、
夕焼けから闇に移り変わる風景の中にひときわ明るく光る場所が見える。
倍率を上げてよく見ると、どうやらスタジアムのようだ。
プロ野球の試合の真っ只中。
スコアボードに目を向けてみると、9回裏、2アウト。3対5でホームチームが負けている。
1塁と3塁にランナーがいるように見える。
ってことは、次のバッター次第では勝利もあり得る。
ボクは思わず、親の選択という大仕事も忘れて試合に見入った。
初球は、アウトコース低めをついて、ボール。
2球目は高めに浮いた球をカットして、打球は観客席へ。
そして、3球目。
打席に立つ彼の顔が、一瞬笑ったように見えた。
心地よい余韻を残して、ボールはバックスクリーンへと吸い込まれていく。
逆転サヨナラ3ラン。劇的な幕切れだ。
ナインに祝福される彼の笑顔は、背筋がゾクゾクするほどキレイだった。
ボクは「この人の子どもになってみようか」と考え始めていた。


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ボクが選んだボクの人生~1 どうする、ボク~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 漂っている。ふわふわと、漂っている。
暑くもなく、寒くもない。快適な空間にボクはいる。
眠ってしまいそうになるけど、それはダメ。眠っちゃ、ダメ。
この「ふわふわ」に居る間に、ボクはよーく考えて、選ばないとならないのだ。

 どんな家で暮らしたいか。
お父さんはどんな職業の人がいいのか。
お母さんは、キレイな人がいいか、人柄を重視するか。
この「ふわふわ」から下の世界をよーく観察して、自分で選んで決定ボタンを押すのだ。
リセットは、許されない。一度きり。夜中の12時までに決めないと、
ボクは「生まれる権利」そのものを剥奪され、
もう一度列の一番後ろに並ばないとならなくなる。
この「ふわふわ」の、ずっと先。光の速さでも数年かかる、列の最後尾。
それは、イヤだ。もう待ちくたびれたもの。とにかく、選ばなきゃ。


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