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ボクが選んだボクの人生~12 ちょっと待った!~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 「ふわふわ」の上から下界を見下ろしていたあの頃と違って、
ボクの自由は著しく制限されていた。
まだ狭くて窮屈、というわけではなかったが、
父親である彼の様子を見に行きたくても、今ではそれも出来ない。
母親である彼女の様子さえ、中から感じる声やちょっとした動きから想像するしかないのだ。
そんな中、時折聞こえてくる彼女の鼻歌や「しまった!ドレッシング、切らしてた。」みたいな
ちょっとした独り言はずいぶんとボクを和ませてくれた。
たまに気分が悪くなって洗面所に急いでいるようではあるが、
ひどく調子が悪い、ということはなさそうだ。

 彼がやってきたのは、日付が変わる少し前だった。
疲れているのか、もともと無口な性質なのか、彼の声はほとんど聞こえてこない。
「昨日は急に帰ってごめん。」くらい言えばいいのに。
ボクは、少々不満だった。お立ち台ではあんなに饒舌だったのに、って。

 しばらく間があって、先に話を始めたのは彼女だった。
「いろいろ考えたんだけど。貴方に迷惑がかかるのはよくないかなって。
無理なら、いいよ。諦めるよ。すごく悲しいけど。」
何だって?今、何て言った?諦めるって、ボクのこと?
オナカの中でおろおろと慌てふためく、小さなボクのことなんて彼らは全然考えてないのだ。
叫んだって、泣いたって聞こえるはずもない。途方もない空虚感がボクを包んだ。


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