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ボクが選んだボクの人生~19 うーん、そう来たか~ [小説「ボクが選んだボクの人生」]

 靱帯を断裂し、術後のリハビリを続けていたボクの父親から
電話がかかってきたのはそれから数日後のことだった。
少し沈んだ彼女の声と、その受け答えから判断すると、
彼は選手としての復帰を断念し、球団に引退を申し出るつもりらしい。
「分かったよコーちゃん。私のことなら大丈夫。
こう見えてけっこう節約してたから貯金だって意外とあるんだよ。
何も心配しないで自分のことだけ考えてていいからね。」
無理に声を明るくしていることはすぐに分かったが、
健気であたたかい彼女の言葉はボクの胸にも響いた。
「プロ野球選手の子どもになる」というボクのもくろみは生まれる前に頓挫してしまったけれども、
それはそれでいいような気がしていた。

 意外だったのはその次の電話だった。
引退を申し出て新しい生き方を模索している彼に、彼の妻は離婚を要求している、というのだ。
金の切れ目が縁の切れ目、か。よく言ったものだな。
「プロ野球選手の従順な妻」はいわば世間向けの顔であり、彼女の本質ではなかったのだろう。
仮に浮気をしているというのが事実であれば、
夫にシッポを掴まれる前に離婚を切り出した方が何かと都合がいい、と思ったのかも知れない。
いずれにしろこの2本の電話でボクは「プロ野球選手の子」ではなくなり、
「愛人関係にある二人」の子でもなくなる可能性すらも出てきたわけだ。
「生まれる前から波瀾万丈だなぁ。」他人事みたいに面白がっている自分がちょっと可笑しかった。


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