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天才モンちゃん今日も行く(第三十四話) [小説「天才モンちゃん今日も行く」]

 満開の桜並木の下をミヨさんとのんびり散歩をする夢を見ながら
気持ちよく眠っていたモンちゃんの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「あ、モンちゃんだ!」「ほんと!モンちゃんが、モンちゃんがお墓に居ますよ、先生!」
「えっ?モンちゃんがここに?どうして?」「モンちゃんだ、モンちゃんだ!」
ずいぶん賑やかな夢だなぁ、と思いながらも、熟睡していたモンちゃんの目はなかなか開かない。
とりあえず右の目を少しだけ開けて、声のする方をじーっと見つめてみる。
どうも、夢ではなさそうだ。何人かの人影が、モンちゃんの方に早足で近づいてくる。
目をこらしてよく見ると、ようやくその人たちの顔が少しずつはっきりとしてきた。

 「どこに行ってたの、モンちゃん。心配したんだよ。無事で良かった・・・・。」と言いながら、
川橋先生が駆け寄ってきてモンちゃんの背中に両手を置くと、
「モンちゃん、もしかしてお母さんのお墓にお参りしたかったの?。」冴子さんが少し涙声で言う。
「モンちゃん、おはかでねんねしてたの?ねぼすけだなぁ。」と言いながら
モンちゃんの顔を覗き込んで無邪気に笑っているのは功太君。
前よりも少しおしゃべりが上手になってきているようだ。
「そうだったんだ。モンちゃん、きっとお墓参りをしたかったんだね。
気づいてあげられなくて本当にごめんよ。僕が一人でお墓に行ったりしたから・・・。」
少しかすれた声でそう言いながら、先生は目に涙を浮かべている。
僕の方こそ、勝手にいなくなってごめんね、と先生に言葉で言えない代わりに
先生の膝に顎を乗っけて、その潤んだ目を見あげて「わん!」と小さく吠えた。
「先生から連絡があった時は、もう二度とモンちゃんに会えないかと諦めていたけれど、
お母さんがこうして引き会わせてくれたのね。よかった、本当によかった・・・。」
たまらず声をあげて泣き始めた冴子さんの様子に驚いた功太君が、
「お母さん、モンちゃん怖いの?大丈夫だよ。モンちゃんはおりこうだからかまないんだよ。」
と言ったものだから、泣いていた二人も思わず吹き出してしまった。

冴子さんと先生がお墓の掃除をする間、モンちゃんは功太君とかくれんぼをして遊んであげた。
お掃除が終わると皆で手を合わせ、モンちゃんと会えたことに感謝してお墓を後にするのだった。
「商店街の方々にいろいろお世話になったので、ちょっと寄ってお礼を言いたいんです。」
と冴子さんが言い、回り道をすることになったのを聞いてモンちゃんは嬉しかった。
ここに来る前に水田のおじさんが挨拶してくれたのに、
ちゃんとお返事しないで走り出してしまったことを申し訳ないと思っていたからだ。
商店街に着くと水田のおじさんはいつものようにしゃがれた声で
「今日はトマトのいいのが入ってるよ。」とお客さんに勧めている。
ゆっくりと皆で近づいていくと、おじさんはとても驚いた表情で
「これはこれは、みんな揃ってどうしたんですか。モンちゃんといっしょにお使いですか?」と尋ねた。
「この前もね、モンちゃんが遊びに来てくれたから田中さんとこに行ってコロッケを分けてもらって。
ところが食い終わったと思ったら道台寺の車の後を追っかけてものすごい速さで走ってったから
大丈夫かなって心配してたんですよ。」というおじさんに、
「そうだったんですか。モンちゃん、こちらにお邪魔してたんですね。」と先生が答えると
「今朝もね、またこの辺りまで来てくれてたんだけど、何だかやけに急いでたみたいでね、
ダーッと走ってっちゃったの。モンちゃん、あまり急ぐと車にぶつかるぞ。」とおじさんが続けたので、
モンちゃんはお詫びの気持ちをこめて丁寧な「お手」をしてあげた。

「モンちゃんは、こちらに来れば何か分かるかも知れないと思って来てみたのかも・・。」
冴子さんが独り言のようにそうつぶやくと、
「どうしたんです?何かあったんで?」とおじさんが聞き返したので、
モンちゃんがしばらく行方不明になった後、
ミヨさんのお墓に居たことを話すと、「だから道台寺さんの車を追っかけてったってわけか。
やっぱりモンちゃんは俺よりもずっと賢いなぁ。はっはっは!」と大きな声で笑った。
総菜屋の田中さんや他のお店の人たちにも挨拶を済ませて、
商店街を背中に歩き出した3人とモンちゃんを、5月の透きとおった風が追い越していった。

ー続くー


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降龍十八章

またまた巧い展開です。これで、一段落ですね。功太君のセリフがおもしろいですね。
by 降龍十八章 (2005-11-23 15:23) 

はなぽん

降龍さん、あのね。実は明日の三十五話で、いったん区切りをつけようと
思っているんです。明日を最終話にして、いつの日か続編を書こうと・・・。
でも、三十五話を書き終えてから寂しくてたまらなくて、
もっと続けて書いてしまおうか・・ともう一人の私がささやいたりして、
いまだに悩んでいます。
あと少し、真剣に悩んでみます。
by はなぽん (2005-11-23 15:40) 

モンちゃんの脱走が、みんなに理解してもらえてよかった。
次が最終回ですか。心して読みます。
by (2005-11-23 19:23) 

はなぽん

秋見さん、こんばんは。
モンちゃんとの毎日は、楽しくて幸せで、充実していました。
自分の力だけでは到底続けられませんでした。
本当に来て下さる皆さんのおかげで続けることが出来たのです。
秋見さんのあたたかい言葉が、どれだけ支えになったか分かりません。
本当に感謝しています。ありがとう(^_^)
by はなぽん (2005-11-23 20:47) 

ayazou

 ミヨさんにも会えて、川橋先生とも会えて、良かったですね!
次回が最終回だなんて、寂しいけど、楽しみにしてます。
私も今、10話目を下書き中ですが、仕事が忙しくて、なかなか書けません。
by ayazou (2005-11-23 21:14) 

はなぽん

アヤ蔵さん、こんばんは。
寂しい、って言って下さってありがとう。
アヤ蔵さんの「脱輪」、アクセスも順調に伸びていますね。
このあとも楽しみに拝見します。
by はなぽん (2005-11-23 23:11) 

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